抄録
日本での酸性雨問題の端緒は, 1973年から数年間, 関東地方などで起きた湿性大気汚染であり, これを契機に自治体を中心とした調査・研究体制が形成され, その10年後の1983年には環境庁の第1次酸性雨対策調査へと引き継がれてきた。この間, 日本各地で降水が採取され, そのpHならびに主成分濃度が測定されるとともに, 主な成分について沈着量も算出されるようになってきた。各地の降水pHの年平均値は4.6 (4.5~4.7) 程度であり, この値はこの10年間に大きな変化はない。降水の酸性度の低下をもたらしている降水の成分はSO42-とNO3-であるが, NO3-/SO42-当量比が大きいほどpHが低下するという傾向は明確には示されていない。都市部ではCa2+やNH4+の作用によりpHがやや高くなる地点がある。今後, モニタリング体制などについてさらに検討すべきではあるが, ようやく, 酸性雨による植物影響の課題と長年蓄積されてきた降水データとが結びつきつつある。