抄録
1990年代後半に棚田保全の問題が顕在化し、多数の制度や政策が実施されてきた。またオーナー制度や都市住民の農業体験など多くの取り組みも行われてきた。どのように棚田は保全されているのかという調査研究も数多く展開されてきた。しかし、四半世紀たっても、棚田保全問題は決して楽観できる状況にはない。
本論では棚田保全へのさまざまなアプローチを踏まえ、今まで焦点が当てられてこなかった「誰が棚田保全に関わっているのか」「誰が棚田耕作の担い手となっているのか」という保全主体に着目した。事例地の姨捨棚田は多くの顕彰を受け、認知度が高い棚田である。同時に直接・間接問わず、姨捨棚田に関係している主体も多様である。今
回、特に直接耕作している主体、保全団体に焦点を当て、その現状と課題を明らかにした。
その結果、姨捨棚田においては、六つの保全団体が存在していることが確認された。これらの団体は、自立性を保ちつつ緩やかにつながり合っていることがわかった。各団体の課題においても、経費の問題、会員の減少、コロナ禍での交流の困難など違うこともわかった。地元営農者が耕作の預け先として保全団体を視野に入れていることが千曲
市の調査で確認されたが、各団体が耕作を維持するためには、それぞれの課題への対応可能な柔軟な制度・政策を構築していくことが重要である。