谷本学校 毒性質問箱
Online ISSN : 2436-5114
レクチャー6 ファーマコビジランス
6-1 分子イメージングの創薬への応用
阿部 浩司柏木 雄人桃崎 壮太郎
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2015 年 2015 巻 17 号 p. 94-101

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抄録

 近年、世界的に低迷する創薬の成功確率を高めるツールとして注目を集めているのがバイオマーカーである。臨床評価に技術革新をもたらすと期待されるバイオマーカーは2004年3月に米国食品医薬品局(FDA)がまとめた“Innovation or Stagnation”(革新か停滞か)という刺激的なタイトルの白書発表を機に、バイオマーカー研究はより活発になっている。また、新薬開発の成功確率の低下の原因として開発プロセス(クリティカルパス)で使用されている技術やツールが従来の古いままになっていることが指摘されている。現在、臨床で広く使用されているPET(ポジトロン断層法)、SPECT(単一光子放射断層法)、MRI(核磁気共鳴画像法)、 X線CTなどのイメージング技術や診断の進歩に加え、画像処理、検出器などの技術の飛躍的な向上により、ヒトのみならず小動物での生体の形態や機能を直接画像として捉え、定量的に解析することが可能になってきた。生体内で起こる様々な生命現象を分子レベルで可視化できる分子イメージング研究は生命活動の解明、病態の原因解明、疾患診断、個別化医療や創薬などへの応用が特に期待されている。これら分子イメージング技術を臨床開発に活用し、早期診断・治療・予防・テーラーメイド医療などの診断・治療分野に展開し、新薬の治療効果や副作用を画像化して捉える技術が大きく期待されている。

 PET、SPECTは放射性同位体で標識した化合物と生体分子との相互作用を非侵襲的に高感度かつ高精度で、定量的に画像評価できる技術である。分子の挙動を生きた状態で調べることが可能なPET/SPECTは、製薬企業が有する化合物を直接標識することで、ヒトや動物での化合物の組織分布等の薬物動態解析に応用できるだけでなく、生体機能変化を検出しうるイメージングバイオマーカーとして、新薬開発、疾患診断に応用できる。一方、MRI は生体の形態情報を非侵襲的かつ100ミクロン前後の高い空間分解能で検出できるだけでなく、様々な機能画像法が開発され、病態診断に応用されている(表1)。創薬において、病態や疾患特異的分子の画像による薬効評価や安全性評価は非常に有用であり、そのためのイメージングバイオマーカー研究は動物からヒトへの一貫した橋渡し研究を可能にするため、非臨床試験から臨床試験での薬効・安全性への予測や検証研究が可能になり、臨床試験の成功率向上につながると考えられる(図1)。著者らはPETをはじめとする核医学分子イメージング技術やMRIを用いたイメージング研究を進め、病態や生理機能、薬剤の治療効果をイメージングで捉え、非臨床から臨床まで使用可能な機能画像診断技術の開発に取り組んでいる。本稿ではPETやMRIを用いた病態イメージングに関する我々の研究の一部を紹介する。

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© 2015 安全性評価研究会
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