抄録
培養技術に技術革命が起こっている。まずES細胞やiPS細胞を出発点とした様々な分化誘導培養が可能になり、さらには臓器由来の細胞を出発点として正常組織の培養が可能になってきた1)。がん細胞の培養法も従来のがん細胞株から初代培養、三次元培養へと大きくトレンドが変わりつつある。In vitro毒性試験の観点からすると、正常組織の特性を反映する培養には大きな可能性があるが、本稿ではそれには触れず、薬効試験の対象となるがん細胞の調製・培養法について解説する。我々が開発したcancer tissue-originated spheroid(CTOS)法とは細胞-細胞間接着を維持してがん細胞を調製培養する方法である。これまで初代培養では組織を単細胞に分離すること、あるいは組織そのものから始めることが常識であった。がんを単細胞として扱うことは、長い間がん細胞培養のスタンダードであり続けた。がん細胞株の樹立はがん組織を単細胞に分離することから始まり、継代培養する際にはきれいに単細胞にすることが求められる。しかし、実際には多くの固形腫瘍の大部分でがん細胞は集団として存在する。これから紹介するCTOS法は、集団としてのがん細胞の特性を明らかにするための、さらには新しい抗腫瘍薬を開発するためのプラットフォームになりえる。CTOS法に限らず初代培養法はヒト組織検体が出発点である。日常診療で廃棄の対象となる残余組織は貴重なリソースであるが、我が国では残余組織の利用は欧米と比較して大きく遅れている。このことはin vitro毒性試験にとっても大きな問題となっていて、抜本的な改革が必要である。