谷本学校 毒性質問箱
Online ISSN : 2436-5114
新規評価技術
3.経皮吸収予測におけるin vitro-in silicoアプローチ
森 大輔
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2018 年 2018 巻 20 号 p. 37-41

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抄録

 皮膚に適用する医薬品や化粧品、または農薬などの開発において、有効性や安全性の観点から経皮吸収性は重要な評価項目の一つである。特に医薬品の皮膚適用製剤は、OTC(over the counter)医薬品として広く使用される消炎鎮痛用の貼付剤や塗布剤ばかりでなく、全身作用性の経皮吸収型製剤(transdermal therapeutic system: TTS)も近年増えており、経皮吸収性評価の重要度は増しているように思われる。
 経皮吸収型製剤は、薬効の持続(投与頻度の軽減)や初回通過効果の回避(バイオアベイラビリティの向上)などの長所を有する薬物送達システム(drug delivery system: DDS)であり、1979年米国でスコポラミンパッチ(乗物酔い防止薬)が誕生して以来約40年の間に日本でも十数成分で製剤化されている(表1)
 経皮吸収を伴う医薬品の研究開発においては、全身の薬物動態はもちろんのこと皮膚透過性の評価が重要であり、皮膚組織を用いたin vitro試験や実験動物を用いたin vivo試験のほか、近年はコンピュータ(in silico)による数理モデル解析や統計的予測も行われている。
 In silico手法に着目すると、物性パラメータ(分子量やLog Pなど)から皮膚透過係数(skin permeability coefficient)を予測するQSPR(quantitative structure-“permeability” relationship)が多くの研究者によって報告されているが、パッチや軟膏などの製剤に対する経皮吸収性予測は、有効成分の物性以外に基剤や添加物(吸収促進剤など)も影響するために困難である。一方で数理モデル解析は現象論に基づくため、有効成分の物性以外の影響因子が存在する場合でも、それらをモデルやパラメータとして考慮することで臨床条件に即した予測が可能であるが、モデルが複雑化した場合にパラメータの数が多くなり決定作業が負担になることもある。
 本稿では、経皮吸収の一般的なin vitro試験で求めたパラメータを数理モデルに適用してヒト血中濃度を予測するin vitro-in silicoアプローチについて、筆者らが実用化した経皮吸収シミュレーションソフトウェアの内容と研究事例を交えて概説する。

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© 2018 安全性評価研究会
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