谷本学校 毒性質問箱
Online ISSN : 2436-5114
再構築ヒト組織
1.創薬開発現場における生体機能チップ(Organ-on-a-chip)の利用
江尻 洋子
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2019 年 2019 巻 21 号 p. 39-45

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抄録

 1つの医薬品を開発するのに12~15年を要し、その開発費用はおよそ13億米ドルとも言われている1)図1に医薬品開発における開発プロセスを示した2)。より早くかつ生体内における予測性を高めるためにモデル(in vitro、in vivo、in silico)を駆使してスクリーニングが行われているが、1つの薬を上市するためには10,000を超える候補化合物から出発していると言われている2,3)。これらスクリーニングでは、ヒトや動物の細胞・組織を用いるin vitro試験として、Cell Based Assayと言われるスクリーニング手法が多く用いられている。代表的な方法としてプラスチック上に接着性の細胞を二次元的に培養した“二次元培養方法”がある。このモデルは非常に単純であり一度に多くの化合物を評価する場合には非常に有用である一方で、細胞間の相互作用や三次元構造など生体内とは異なる環境下で培養されるため、ヒト生体内における化合物の挙動を正確に予測するには限界があると言われてきた。
 この限界を克服するために、生体組織や器官の複雑性をin vitroで再現する試みが多くなされてきた。例えば人工多能性幹細胞(iPS細胞)技術の出現は、患者特異的な遺伝子型を再現できるため非常に有望な技術と言える。しかしながら従来の二次元培養ではヒト生理機能をより高度に再現するにはまだ多くの課題がある。1997年にWeaverらの研究グループが乳がん細胞を用いて二次元培養と三次元培養を行ったところ、細胞の薬物反応が大きく異なることを示したことで、三次元培養法が注目されるようになった4)
 現在、三次元培養法によるモデルが生体内の予測に有望であることが知られるようになってきたが、非臨床試験や創薬スクリーニングでの利用はまだ限定されている。近年ではハンギングドロップ法や低接着表面を用いたスフェロイド培養法に代表されるような様々な分析手段で解析ができる優れたモデルが開発されているものの、生体内の細胞周囲の環境、例えば細胞外マトリクスや他の細胞との相互作用、さらに血管を介した灌流を再現するにはまだ課題がある。

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© 2019 安全性評価研究会
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