抄録
免疫不全マウスにヒト組織を移植生着させ、その生体機能を解析する試みは古く1970年代にさかのぼる。ヌードマウスへのヒトがん組織異種移植がその端緒であるが、scid(severe combined immunodeficient)マウス、NOD(non-obese diabetes)-scidマウスなどのより免疫不全性の高い動物の発見1)、樹立とともにヒトがん組織のみならず、ヒト正常組織の異種移植の試みが続いてきた2)。他方、1990年代のサイトカイン及びその受容体遺伝子研究の進展に伴い明らかにされたIL-2受容体の構成分子であるIL-2受容体γ鎖(IL-2Rγ)の発見3)とその遺伝子破壊マウス(KOマウス)の作製4)により免疫不全マウスの開発は一気に進化を遂げた。すなわちNOD-scidマウスとIL-2RγKOマウスを交配することによって作出されたNOGマウスは従来のNOD-scidマウスとは一線を画す劇的なヒト組織の生着性を示すことが明らかになった5)。NOGマウスはヒトがん組織のみならず、ヒトの正常組織についても一部についてはその機能を維持したまま生着させることが可能である。特にヒト血液・免疫細胞についてはNOGマウスではヒト造血幹細胞の移植により多様な細胞系譜が発生分化することが明らかになっており、一部の実験系においては機能的免疫反応が可能である。本稿では基本的なNOGマウスを用いたヒト血液・免疫系の再構築について説明するとともに、実験動物中央研究所(実中研)で開発した次世代NOGマウスと呼ばれるヒト血液・免疫系細胞の発生分化の改善、機能の強化を目指した新しいマウスモデル及びその応用性について紹介したい。