食物摂取に大きな影響をおよぼす味覚嗜好性は生後の経験や学習によって変化しうる。たとえば、本来好きな味の飲食物を摂取した後で体調不良を経験すると、その飲食物の味を嫌いになることがある。この現象は味覚嫌悪学習(conditioned taste aversion,CTA)として知られる。CTAの神経メカニズムについては、味覚伝導路に含まれる脳部位、特に、孤束核、結合腕傍核、扁桃体、島皮質の関与を示唆する報告が多くなされている。しかし、これらの脳部位の関与だけではCTAにおける嗜好性変化に伴う摂取行動の変化を十分に説明することができない。現在我々は、脳内報酬系の神経回路に着目し、CTAにおける役割について検討している。これまでに、脳内報酬系の一部である腹側淡蒼球のGABA系やオピオイド系がCTAによる味覚嗜好性の変化に関与していることを明らかにした。本稿では、上述の先行研究および筆者らの知見を紹介し、CTAの神経メカニズムの仮説モデルについて述べる。