抄録
本稿では、独立に海洋環境へと適応進化を遂げた二つの羊膜類グループ、鯨類とウミヘビ類において嗅覚
がどのように進化したのかを紹介する。現生の鯨類は二つのグループ、ヒゲクジラ類とハクジラ類とに分類
される。ハクジラ類は完全に嗅覚を失った一方で、ヒゲクジラ類は著しく退化しているものの嗅覚能力を保
持しており、空気中のニオイを知覚できる。ウミヘビ類もまた嗅覚が著しく退化しているが、彼らは鋤鼻嗅
覚によって水中のニオイを知覚できる。羊膜類の海洋環境適応進化に際して嗅覚は必然的に退化するが、そ
の退化の方向性は定まっておらず、系統的な束縛と生態的な必要性の両方に依存する。