抄録
主に江戸期に書かれた香道に関する文献をもとに、それを嗅覚研究の一環として考究していく可能性を考察する。香道文献には様々な種類があるが、それらを概観した上で、「組香」と「名香録」というふたつの形態に絞って検討する。前者からは、香りの記憶と文学的想起という観点から、様々な嗅覚研究の方向性を示す。後者では「聞」の記述から、香りの言語表現という嗅覚研究上のひとつの大きなアポリアへのアプローチとして、言葉の歴史的な解釈と自然科学に依拠した嗅覚研究を統合した研究の可能性の例を示し、今後の可能性を展望したい。