待遇コミュニケーション研究
Online ISSN : 2434-4680
Print ISSN : 1348-8481
研究論文
自己開示場面における「なんか」の働き
コミュニケーションの観点から
杉崎 美生
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ジャーナル オープンアクセス

2019 年 16 巻 p. 1-17

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抄録

「なんか」は日常的に会話に用いられる語で、従来多くの機能が取り上げられ、分析されてきた(鈴木2000、内田2001、飯尾2006)。しかし「なぜ「なんか」という語を発話するのか」という話し手の動機づけに関しては、未だ明確な答えは示されておらず、十分に議論が尽くされていないと考える。本研究では、「びっくりしたこと」を語る会話データを用い、特に会話参与者が自らの経験を語る自己開示場面において、「なんか」と共に現れる語や表現などの言語現象に着目し、「話し手がどのように「なんか」を用いているのか」を考えることから、そのコミュニケーション上の働きを分析した。

その結果、話し手は心的に漠然とではあるが、これから話そうとする内容をイメージとして持っているときに、「なんか」を発話していることが確認された。自己開示場面において、話し手は過去の出来事を想起しながら話すことが多いため、発話内容が順序立てられていない場合や、正確ではない表現を用いる場合もある。そのような場面で、「なんか」は言いよどみや修復と共起し、「漠然としたイメージで話を進めているため、正確とは言えないかもしれないが」という話し手の内的な感情を聞き手に伝えつつ、談話を進めていく働きを担っていた。また「なんか」は、発話内容に対して、その時感じた心の内を表現するとき、心内発話、オノマトペ、発話の引用などの直接経験と共に発話され、聞き手に対し、「正確とは言えないかもしれないが、このように感じた」と、自らの認識を示すことに貢献していた。これらのことから、「なんか」は、話し手の語りがまだ漠然としていることを聞き手に示しながら、語りを駆動させる働きを持ち、心内発話、オノマトペ、発話の引用などの直接経験を導きながら、発話内容に対する自らの認識を伝えるという、コミュニケーション上の重要な役割を果たしていると考えられる。

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© 2019 待遇コミュニケーション学会
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