2021 年 18 巻 p. 35-51
本稿は、ビジネス場面のメール作成調査を行い、その結果から、言語行為における主体の認識と、言語行為の結果としての表現との連動の様相を明らかにしたものである。具体的には、コミュニケーション主体の認識(場面認識と言語行為の前提となる「記憶」への認識)と、言語行為の結果としての表現(内容・形式)とが、どのように連動していたかが中心的な課題となる。言語行為において、どのような連動がみられたかを考察した結果からは、主体がどこに重点を置き、結果としての表現に結び付けているのかには、異同のあることが明らかとなった。本稿では、それらの考察の結果を、「人間関係」、「場」、理解行為から生じた場面認識に重点が置かれた連動、言語行為の前提となる「記憶」に重点が置かれた言語行為、言語行為の結果としての〈内容〉に重点が置かれた言語行為、言語行為の結果としての〈形式〉に重点が置かれた連動、〈ライティングレベル〉に重点が置かれた言語行為としてまとめた。言語行為における連動の様相においては、主体の中でも複数の認識が語られ、「相反」するような認識が生じていた場合もみられた。こうした主体の認識における「相反」からは、「主体の認識自体の動態性」が窺えたと言えよう。