待遇コミュニケーション研究
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Print ISSN : 1348-8481
特別寄稿
敬語表現と文法
授受動詞の用法を中心に
前田 直子
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2021 年 18 巻 p. 52-67

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抄録

現代日本語の授受動詞は他言語と比べて特色があり、日本語学習者には負担が大きい文法項目である。その授受動詞の様々な用法の中で、本稿では次の3つの問題を取り上げる。第一は、依頼表現「~していただけませんか」においてなぜ可能形が必要なのかという問題、第二は、依頼の連続「~して、~してください」において、従属節「~して」の部分に敬語を用いるとすると「~してくださって、…」ではなく「~していただいて、…」が使われるのはなぜかという問題、第三は、「もらってくれた」「もらってあげてくれませんか」のように、授受動詞が2つないし3つ複合できる場合は何通りあるのか、またその条件は何かという問題である。これらについて調査・分析を行った。第一の問題については、一般に1人称主語の疑問文は成立しないが、動詞の可能動詞であれば成立すること、その動詞が「もらう・いただく」の場合、聞き手の行為の実現可能性を問うことが聞き手の動作実現を依頼することになるため、依頼として機能することを述べた。第二の問題については、「くださる」は「ください」という形になってはじめて依頼・指示の意味を表すが、その「ください」には「て」形は存在しない。一方「もらう・いただく」は言い切りの形ですでに依頼・指示を表すことができ、その「て」形も存在可能なので、それが「~していただいて、…」であることを述べた。第三の問題については、非敬語形「やる・あげる・くれる・もらう」4動詞のうち、2つの複合は9通り、3つの複合は6通りあることを述べた。特に生産的なルールとしては「~してくれる?」という疑問の形で依頼・指示することができる「くれる」が後項動詞になりやすいこと、また前項動詞には「もらう」が来やすいことが分かり、その結果「もらってくれる」という組み合わせが使用頻度が最も高いことが明らかになった。

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