イングランドの気候地名研究の一環として、「涼しい(“cool”)」を意味する古英語cōlを第1要素とし、水文景観以外の景観に関する名詞を第2要素として構成される地名32例を対象に、地名に込められた「夏に感じられる涼しさ」の原因を英語学(史的研究)以外の視点から考察した。第2要素が地形に関する名詞の場合は、西日の直射軽減、冷気湖、海風及び河川の冷却効果が涼しさの原因となる可能性を指摘した。 第2要素が植生に関する名詞の場合は、地名が指示する場所あるいはその近隣に、木々がつくり出す日陰と蒸発散の基盤となる樹林地の存在が涼しさをもたらす可能性を指摘した。そして第2要素が家屋などの構築物に関する名詞の場合は、教区教会を中心とする人里から離れ、起伏に富んだ道程を経て、標高の高い場所に孤立するそれらの立地条件を人がどのように受けとめるかが鍵になる可能性を指摘した。