抄録
【はじめに】
強直性脊椎炎(以下,AS) はわが国での有病率が0.0038%と大変稀な疾患である。今回、ASに腰椎圧迫骨折を合併した症例の理学療法を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する。
【現病歴】
昭和54年頃にASを発症。ロフストランドクラッチで歩行レベルであったが、平成18年12月下旬に腰痛増強し、平成19年1月上旬に第4腰椎圧迫骨折と診断された。同年、1月下旬より当院入院し運動療法を開始した。
【入院時所見】
入院時の脊椎単純レントゲン像では靭帯は完全に骨化し脊柱全体が竹節状に強直し、腰椎前彎減少・骨盤後傾位であった。仙骨後面にNRSで5/10の疼痛があり、第4腰椎には叩打痛等はみられなかったが、仙骨後面多裂筋の圧痛、両側の腸腰筋、大腿直筋、薄筋、長内転筋に著明な圧痛が見られた。
Passive ROMは、股関節屈曲75°/90°(右/左,以下同様)伸展-45°/-30°、膝関節伸展-20°/-20°と制限されていた。起き上がり、立ち上がり、立位保持、移乗動作はそれぞれ中等度介助レベルで、歩行は平行棒内両手支持で監視レベルであった。
【入院経過】
運動療法は以下の内容とした。1)仙骨後面多裂筋、両側の腸腰筋、大腿直筋、薄筋、長内転筋の疼痛改善を目的としたマッサージ、2)両側の大殿筋・腸腰筋・大腿筋膜張筋・ハムストリングに伸張性改善を目的としたストレッチと股関節可動域訓練、3)両側下肢の筋力強化訓練、4)基本動作訓練などを実施した。
3月上旬の退院時には、疼痛減少し(仙骨後面にNRSで1/10)、Passive ROMは、股関節屈曲90°/90°、伸展-30°/-20°、膝関節屈曲-15°/-20°に改善し、起き上がり・立ち上がり・立位保持・移乗は修正自立~自立レベルとなった。また、歩行能力は入院時前の状態に回復した。
【考察とまとめ】
疼痛と股関節可動域制限へのアプローチを行い、腰椎圧迫骨折前のADLへ復帰可能となった強直性脊椎炎の一症例につき報告した。仙骨後面多裂筋の疼痛は、腰椎圧迫骨折により椎体の侵害受容器の興奮が誘発する疼痛により反射性筋緊張が起こり出現していると推察した。
また、後藤は腰部後彎姿勢では立位・歩行時に腸腰筋や大腿直筋、内転筋の著明な筋活動の増加を認め筋に過度の負荷が加わる事を報告しており、本症例の股関節周囲筋の疼痛もAS特有の姿勢に由来する筋活動の増加に伴い出現している可能性が推測された。また、股関節伸展可動域の低下は、筋ストレッチと関節可動域訓練により改善したことから股関節屈筋群のスパズム、短縮、股関節前面に存在する靭帯の伸張性低下のため制限されていたと考えられた。