抄録
【はじめに】
重症心身障害児は長期間にわたる同一姿勢により体位変換に対する適応能の低下を認める。今回、喉頭気管分離術後も呼吸器感染症を繰り返す重症児に対して呼吸理学療法を行なった結果、体位変換への適応能の拡大と感染頻度の減少を認めたので考察を加えて報告する。なお発表については家族の了解を得ている。
【症例】
男児4歳、低酸素性脳症、癲癇。自発運動不能。閉眼不能。除脳硬直肢位。両股関節前方脱臼。
【現病歴】
4ヶ月:腹臥位での呼吸停止で発見され、蘇生後人工呼吸器管理。8ヶ月:気管切開。10ヶ月:呼吸器離脱。3歳11ヶ月:当施設入所。
【経過と治療】
4歳2ヶ月:体重12.6kg、喉頭気管分離術施行後O2離脱。日常の45°側臥位ではHR85bpm、RR16bpm、SpO297~100%で分離術前よりも安定した。胸部X線所見では横隔膜は平低下し挙上、背側胸郭は板状に扁平で動きはなく、呼吸音も減弱していた。上部胸郭運動を伴う大きな吸気に続く数回の多峰性吸気パターンを認めた。腹臥位はSpO2の低下を認めたため不可能であった。週1回の定期的な胸郭可動域改善と全周期呼吸介助の治療を継続した。4歳4~5ヶ月: 体重14.2kg。体重増加につれて、過剰な上部胸郭運動を伴う多峰性吸気が目立ち始め、毎月気道感染を繰り返した。側臥位ではHR75~95bpm、RR18bpm、SpO295~99%、VTi71ml、ETCO245torrで変動が大きく不安定であった。粘稠痰が貯留しやすく排出が困難となったため腹臥位を再度試行し、評価を行った。HR100bpm、RR13bpm、SpO295%、VTi66ml、ETCO248torrで呼吸音の改善も認めず中止した。週1回の治療に加え、毎朝の加湿、全周期呼吸介助による排痰と下葉の換気改善を目的としたバッグ加圧を施行し、体位管理は2時間ごとの左右60°側臥位を徹底した。4歳11ヶ月:体重15.7kg。60°側臥位ではHR64bpm、RR17bpm、SpO297~99%、VTi65ml、ETCO242torrで安定した。腹臥位ではHR65bpm、RR16bpm、SpO298~100%、VTi60ml、ETCO242~45torrで、胸郭背側の挙上運動と呼吸音の改善を認め、腹臥位への体位変換が可能となった。4歳5ヶ月以降の感染はなかった。
【考察】
本症例は長期的な仰臥位管理により、下葉の換気が極度に低下していたため、上部胸郭を数回拡張させてVTiを増やす代償的な多峰性吸気を示していた。そのため腹臥位においては、自重により上部胸郭の吸気運動が抑制され、同部の換気量が減少し、RRの減少とともにバイタルサインが低下したものと考える。6ヶ月間の呼吸理学療法により腹臥位が可能となったのは徐々に両下葉への換気が改善し、同部の有効換気量が増え、VTiは減少したがバイタルサインの改善を認めたためと考える。固定化した慢性呼吸障害に対する積極的な治療は児の体位変換への適応能の改善に有効であった。