抄録
【目的】実験動物での検討では,温熱負荷や運動負荷によって廃用性筋萎縮の進行が抑制され,このメカニズムには分子シャペロン機能を持つHeat Shock Protein (HSP) 70の発現が関与しているとされている.しかし,温熱負荷や運動負荷を単独で行った場合より,それらを併用した場合が廃用性筋萎縮の進行抑制効果が著しいのであれば,従来の方法より効果的・効率的に筋力の改善が図られると仮説できる.そこで、本研究ではこの点に関する基礎資料を得る目的で,温熱負荷と運動負荷の併用がマウスヒラメ筋の廃用性筋萎縮の進行抑制におよぼす影響を検討した.
【方法】ddy雄マウス25匹を対照群5匹と2週間の後肢懸垂法(HS)によってヒラメ筋に廃用性筋萎縮を惹起させる実験群20匹に分け,実験群はさらにHSのみの群(HS群)とHSの過程で温熱負荷を行う群(Heat群),運動負荷を行う群(Ex群),温熱負荷と運動負荷を併用する群(Heat&Ex群)に分けた.温熱負荷の方法は,覚醒下での60分間の全身加温(約41℃)とし,これをまずHS開始直前に行い,その後は3日おきに実施した.運動負荷の方法は,マウスの尾部に体重の約30%の重錘をつけ,傾斜角度80°の金網に強制的に20分間静止させる等尺性収縮運動とし,これをまずHS開始2日後に行い,その後は3日おきに実施した.また,温熱負荷と運動負荷の併用は上記と同様のプロトコルでそれぞれを負荷し,これによって温熱負荷の2日後に運動負荷を行うこととした. 実験終了後は両側ヒラメ筋を採取し,筋湿重量を計測した後に右側試料は凍結横断切片とし,ヘマトキシリン・エオジン染色を施し,筋線維横断面積を計測した.また,左側試料の筋抽出液を用い,ELISA法によるHSP70の定量を行った.なお,本実験は星城大学が定める動物実験指針に準じて行った.
【結果】筋湿重量を体重で除した相対重量比,ならびに筋線維横断面積は,対照群に比べ4群の実験群はすべて有意に低値であった.また,実験群間で比較するとHS群に比べHeat群,Ex群,Heat&Ex群は有意に高値であったが,この3群間には有意差を認めなかった. 次に,HSP70含有量を各群で比較すると対照群よりHS群は有意に低値で,HS群よりHeat&Ex群,Heat群は有意に高値であった.
【考察】今回の結果,温熱負荷や運動負荷,またそれらを併用いずれにおいても廃用性筋萎縮の進行抑制効果が認められた.そして,温熱負荷ではHSP70の発現を認め,このことが廃用性筋萎縮の進行抑制効果のメカニズムの一つとして作用していると推察された.一方,先行研究では運動負荷でもHSP70の発現を認めたと報告しているが,今回の結果ではHSP70の発現は明らかではなく,運動負荷による廃用性筋萎縮の進行抑制効果は他のメカニズムの関与が考えられた.加えて,今回のプロトコルでは温熱負荷と運動負荷の併用が廃用性筋萎縮の進行抑制により効果的である結果は得られず,今後は筋線維タイプの違いによる検討を行うとともに,プロトコルの再検討も必要と思われた.