抄録
【目的】
長期臥床による下肢の廃用性筋力低下に対し、理学療法では筋力改善の有用な方法として起立・立位保持練習を実施している。骨格筋は肥大する際に筋衛星細胞が活性化し、筋線維の修復や新生に働くことが知られている。また、筋衛星細胞は活性時に転写調節因子である遺伝子(MyoD)を発現するため、MyoDは筋衛星細胞活性化の発現マーカーとして利用できる。ラットにおける後肢懸垂後再荷重の研究では、骨格筋の萎縮が改善されることが報告されているが、再荷重後のいつの時期に最も筋衛星細胞が活性化するかは不明である。本研究では後肢懸垂後に再荷重を行い、MyoD mRNAの発現量を経時的に調査し、筋衛星細胞活性化の時期を明らかにすることを目的とした。
【対象と方法】
対象は8週齢のWistar系雄ラットとした。ラットは無作為に対照群(CON群; n=5)と実験群に振り分けた。実験群はさらに2週間の後肢懸垂群(SUS群; n=6)と再荷重に振り分けた。再荷重期間は2日間(2D群; n=6)、7日間(7D群; n=5)、14日間(14D群; n=5)とした。両側のヒラメ筋は実験期間終了後に採取した。次に右ヒラメ筋を急速凍結した後、クリオスタットを用いて横断切片を作成した。切片はヘマトキシリン・エオジン染色を施し、筋線維面積を求めた。左ヒラメ筋筋腹中央部を切り出しtotal RNAを抽出、精製した。次にランダムプライマーを用いてcDNAを合成した。Light Cyclerを用いてリアルタイムPCRを行い、GAPDH mRNAを内部標準遺伝子としてMyoD mRNA発現量を定量した。統計学的解析には分散分析及びボンフェローニの補正法による多重比較検定を行った。なお、本研究は金沢大学動物実験委員会承認のもとに実施した。
【結果】
骨格筋湿重量はCON群に比してSUS群が有意に減少し、7D群、14D群でSUS群よりも有意に増加した。骨格筋断面積はCON群に比してSUS群、2D群が有意に減少し、SUS群に比して7D群と14D群は有意に増加した。リアルタイムPCR法ではCON群に比して2Dのみ有意に増加を認めた。
【考察】
MyoD mRNAの発現量は、再荷重の直後から2日目をピークに増加した。この結果は2日目に向けて筋衛星細胞の活動が活発になったと考えられる。そして7日目にはMyoD mRNAの増加はなく、骨格筋湿重量がCON群と同等になり、断面積についてもSUS群より有意な増加を認めた。これは既にMyoD mRNAの活動時期が終了していると考えられた。今回の結果から、ラットヒラメ筋のMyoD mRNAの発現量は再荷重後2日目に増加のピークを迎え、その後は減少に至ることが明らかになった。