抄録
【はじめに】円背者の坐位姿勢では脊柱の後彎に伴って骨盤が後傾し骨盤を前傾させることが困難である.そのため,円背者の立ち上がり動作が困難となることは臨床上よく遭遇することである.従って円背姿勢に対する改善や予防を目的に理学療法として坐位での骨盤帯・体幹に対してアプローチすることは重要なことである.しかし,坐位で骨盤の前後傾運動と脊椎運動の関係を報告したものは少ない.そこで,本研究の目的は端坐位における骨盤前後傾運動中の骨盤帯と脊柱の運動について分析することである.
【方法】被験者は健常成人男性18名(平均年齢24.7歳)とした.骨盤前後傾運動中の脊柱,骨盤,股関節の運動分析には3次元動作解析装置を用い計測した.被験者は端坐位で骨盤最大前後傾運動を一定速度(各4秒間)で5回くり返した.データ解析は各被験者において3回をランダムに抽出し,運動分析は骨盤の前傾運動相,後傾運動相に分け行った.骨盤傾斜可動範囲,股関節可動範囲,上部胸椎・下部胸椎・腰椎の各部位の可動範囲との間のそれぞれの相関について検討した.
【結果】端坐位における骨盤前後傾運動中の脊柱の動きは,骨盤前傾にともなって,股関節は屈曲し,下部胸椎,腰椎の伸展がみられた.上部胸椎も伸展するが可動性は小さかった.後傾運動では前傾運動時と相対的なパターンを示した.骨盤前傾運動時の左右平均股関節可動範囲は26.4±7.1度,骨盤傾斜可動範囲は39.0±9.1度,上部胸椎可動範囲は5.4±1.8度,下部胸椎可動範囲は13.2±5.5度,腰椎可動範囲は27.1±7.6度であった.骨盤後傾運動時の左右平均股関節可動範囲は26.0±6.4度,骨盤傾斜可動範囲は39.0±9.4度,上部胸椎可動範囲は5.7±1.8度,下部胸椎可動範囲は12.9±5.5度,腰椎可動範囲は26.9±7.4度であった.前傾時,後傾時の各部位の可動範囲はほぼ同程度であった.
前傾運動においては,骨盤可動範囲と下部胸椎可動範囲(r=0.47),股関節可動範囲(r=0.79)に正の相関がみられた.また腰椎の可動範囲と股関節可動範囲(r=0.72)で正の相関がみられた.後傾運動においては,骨盤の可動範囲と上部胸椎可動範囲(r=0.49),下部胸椎可動範囲(r=0.54),股関節可動範囲(r=0.79)で正の相関がみられた.腰椎の可動範囲と股関節可動範囲(r=0.79)で相関がみられた.
【考察】骨盤前後傾運動と股関節の運動は強く相互に影響しあっていることは以前から報告されている通りであった.また,骨盤傾斜可動範囲と上部,下部胸椎可動範囲に正の相関がみられたことから,脊柱の可動性を維持するためには骨盤の可動範囲が必要であることが示された.このことから,骨盤運動は胸椎の運動に影響を与えることより,脊柱後彎増強に対する運動療法としての効果が示唆された.