東海北陸理学療法学術大会誌
第24回東海北陸理学療法学術大会
セッションID: P048
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歩行における大腿四頭筋の働きとその代償作用へのアプローチ
大腿四頭筋切除術後に屋内杖歩行自立可能となった症例を通して
*池谷 亮寺田 茂
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キーワード: 大腿四頭筋, 膝伸展機構, CKC
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抄録

【はじめに】
 大腿四頭筋は膝関節伸展作用を持つ筋として大きな筋力を発揮し、歩行や立位動作の安定性にも強く関わる。
 今回、大腿部の悪性軟部腫瘍により大腿四頭筋のほぼ全ての切除を余儀なくされ、膝伸展機構の破綻を来たしたにもかかわらず、屋内移動が膝装具なしでのT字杖歩行自立可能となった症例を経験したので報告する。
【症例】
 85歳、女性、左大腿部平滑筋肉腫に対し腫瘍切除術を施行された症例である。病前は一軒家で独居、屋内外の移動や家事動作も含めADLは全自立であった。尚、症例には本発表の趣旨を十分に説明した上で同意を得た。
【経過】
 2年程前より左大腿部に腫瘤を認め、症状悪化のため他院にて手術施行、術後5週目でリハビリテーション継続目的にて当院入院、理学療法開始となった。
 初期評価ではROM制限はなく、術側下肢筋力は2~3、非術側4レベルであった。術側膝伸展は、端座位で膝関節90度屈曲位から15度伸展可能であった。大腿周径では、膝蓋骨上縁15cmで最大4.5cmの左右差(非術側>術側)を認めた。歩行はT字杖監視、10m歩行は24.0秒、30歩。術側荷重量は安静立位時で全体重の30%、最大荷重時80%であった。いずれも立位動作時は金属支柱付膝装具を装着し、装具なしではわずかな屈曲でも膝折れを認め立位保持困難であった。
 治療プログラムは大殿筋、ハムストリングス、大腿筋膜張筋、下腿三頭筋を中心とした下肢筋力強化運動、closed kinetic chain(CKC)での膝伸展保持に関与する筋の再教育、膝装具なしでの基本動作練習を行った。
 理学療法開始5週目の最終評価時で筋力、周径に著しい変化はないが、膝伸展は同肢位で30度伸展可能、歩行は膝装具なしで屋内T字杖自立、10m歩行は21.5秒、27歩、術側荷重量は装具なしで安静立位時40%、最大荷重時88%、膝30度屈曲位時83%であった。屋内ADLの自立に伴い自宅退院、理学療法終了となった。
【考察】
 本症例は大腿四頭筋切除により膝伸展が困難なため、膝装具なしでの日常生活は難しいと思われた。初期評価時は骨性支持による膝完全伸展位での立位保持が可能であったものの、屈曲位保持はできず装具なしの歩行は膝折れによる転倒の危険が考えられた。
 歩行の立脚初期における大腿四頭筋の膝関節安定作用の代償には、大殿筋、ハムストリングス、下腿三頭筋の働きが挙げられる。このうち、OKCで膝屈曲作用を持つ筋はCKCでは膝伸展保持に寄与すると考えられる。加えて大腿筋膜張筋も膝軽度屈曲位で膝伸展作用を持つ。これらの筋に対し、筋の特異性の原則に基づくCKCでの筋再教育によるアプローチの結果、膝軽度屈曲位の保持が可能となり歩行安定性の向上、装具なしでの屋内杖歩行自立に至った。これは、MMTでの有意な変化はなくとも作用機構の再構築がなされ、膝関節安定性が向上したためと考えられる。

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© 2008 東海北陸理学療法学術大会
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