抄録
【目的】
脳卒中片麻痺者の歩行では膝ロッキングが観察されることが少なくない.膝ロッキングの原因は1.大腿四頭筋の筋力不足2.固有受容器の障害3.大腿四頭筋の過緊張4.底屈筋の過緊張などによる前足部接地に伴う二次的現象などと先行文献では述べられている.しかしこれらに問題がないにも関わらず膝ロッキングが生じる症例を経験する.筆者らはこのような症例には膝ロッキング出現以前の矢状面における上半身位置が関連していると感じている.そこで本研究は上半身位置に着目した治療後に膝ロッキングが改善した症例の歩行分析より,矢状面における治療前後での上半身位置と足関節・膝関節位置との関連を明らかにすることを目的とした.
【対象】
下肢BRS6,MMT4以上.屋外独歩自立の右片麻痺女性1名で,治療前快適歩行時の右立脚終期(TSt)に膝ロッキングが観察された.
【方法】
DIFFマーカセットに加え第7胸椎棘突起(以下Th7)にマーカを貼付し,三次元動作解析装置VICON MX(VICON社製)にて治療前後で快適歩行を計測した.
【データ処理】
矢状面での右足関節中心からTH7の前後距離,右足関節中心から右膝関節中心の前後距離(以下足-膝距離),右膝関節中心からTH7の前後距離(以下膝-上半身距離)を算出し,治療前後で右立脚期(IC~MSt)における各距離の変化を比較した.
【結果】
右立脚初期(IC~LR)で膝関節が足関節より前方に位置した後,治療前は足-膝距離が短縮し,治療後は拡大した.その後右立脚中期(MSt)までに治療前は膝-上半身距離が急激に短縮し,治療後は緩徐に拡大した.
【考察】
治療後はICからMStまでにTH7,膝関節ともに前方移動しているのに対し,治療前ではTH7が膝関節に接近していることからTSt以前に膝伸展モーメントが発生し易くなっていたと考えられ,特に本症例のように,膝ロッキングの原因として筋力や固有受容器の問題が少ない場合においては,膝ロッキング出現以前の上半身位置と下肢の関節の位置関係が関連していることが示唆された.