抄録
【目的】大腿骨近位部骨折は高齢者に多い代表的な疾患の1つである。近年、高齢化は進み大腿骨近位部骨折受傷患者の平均年齢も上がっている。それに伴い、高齢者の中でも90歳以上の超高齢者が占める割合も増加している。平成20年28,225名、平成21年29,141名、平成22年31,509名と当地域においても年々超高齢者が増加しているのが現状であり今後、更に増加の一途を辿ると思われる。そこで大腿骨近位部骨折を受傷した超高齢者の現状についての調査を行った。
【方法】2009年4月から当地域で大腿骨頚部骨折地域連携パス(以下地域連携パス)を使用した患者で90歳以上の超高齢者大腿骨近位部骨折について検討した。調査項目は性別、年齢、術式、在院日数、転帰、最終移動能力、機能的自立度評価表(以下FIM)について地域連携パスを用いてretrospectiveに検討した。
【結果】同期に地域連携パスを使用したのは146名。90歳以上の超高齢者大腿骨近位部骨折患者は26名で17.5%であった。内訳は男性3名、女性23名。平均年齢は92.4歳(90歳から98歳)であった。術式は人工骨頭置換術4名 骨接合術22名。骨接合術の内訳はγ―nail14名、CHS2名、ヒ゜ンニンク゛6名であった。平均在院日数は急性期では19.2日(9から33日)、回復期では57.3日(2から98日)、平均総在院日数は75.5日(13から128日)であった。転帰先は自宅15名、施設7名 病院1名、不明2名、死亡1名であった。最終移動能力は、杖歩行再獲得者は5名、歩行器・シルバカー歩行は5名、つたい歩きは3名でなんらかの方法で歩行が再獲得できたのは13名であった。また、車椅子は13名であった。そのうち受傷前から車椅子は1名であった。FIMは回復期病院転院時では中央値50.0点(24点から88点)、運動面中央値32点(15点から59点)、認知面中央値17点(8点から35点)、回復期病院退院時では中央値74.5点(39点から115 点)、運動面中央値57.0点(30点から85点)、認知面中央値18.5点(8点から35点)であった。
【考察】超高齢者大腿骨近位部骨折受傷患者の現状について調査を行った。在院日数では全体平均より下回っていた。FIM項目では回復期病院での充実したリハビリテーション(以下リハビリ)により全体は改善傾向を示した。大腿骨近位部骨折では移動能力低下を多く認め、超高齢者でも例外ではない。歩行再獲得者の中でもFIM歩行・車椅子では修正自立患者は1名でその他は介助を要する結果であった。この事から退院後の移動に関しては社会サービスまたは介助者の協力が必須である事が示唆された。当地域では新規での介護認定に要する期間が2ヶ月程度要する。この事から平均総在院日数を考慮すると急性期病院入院中に介護保険認定状況を確認する必要があると思われた。今回の結果から超高齢者では運動機能だけでなく社会サービス、介護者の有無に対する情報収集が重要であると思われた。
【まとめ】地域連携パスの使用で急性期病院の在院日数は減少傾向である。そこでの急性期病院でのリハビリの役割は活動性の低下による筋力低下や肺炎などの合併症を起こさせず、回復期病院へスムーズに転院させることが1番の役割だと考えられる。それに加えて回復期病院退院後の自宅復帰を見据えた社会背景の洗い出しが必要であると考えられる。今後は、スムーズに回復期病院退院後自宅復帰出来る様に急性期病院入院時から早期に社会サービスなどの情報収集が必要であると考えられた。