抄録
【目的】
医療・介護施設において、理学療法士が移乗動作の介助方法をケアワーカー(CW)に指導することは多い。しかし、移乗介助の効果的な指導方法について具体的に検討した報告は少なく、臨床現場で十分な教育が行われているか定かではない。医療・介護施設現場では、理学療法士の指導方法が統一されておらず、CWが何に対し困惑しているのかも把握できていないため、指導内容もCWが臨床場面に活かす事のできる移乗介助指導とはなっていないと推察される。そこで今回は、CWに対する移乗介助指導において留意すべき重要な点を明確にし、移乗介助の効果的な指導方法を探る事を目的にアンケート調査を実施したので報告する。なお、アンケート実施前に本研究の目的と方法を口頭で十分に説明し、同意を得た上で施行した。
【方法】
対象者は当施設の3FCW、16名(全て女性)とした。調査期間は平成22年9月27日から同年10月3日までであった。アンケートの項目は、1)CWの年齢、2)CWの経験年数、3)車椅子とベッド間移乗動作で介助困難な方はいるか、4)移乗方法について先輩への相談・後輩への指導をした事はあるか、5)他施設の移乗介助勉強会への参加経験はあるか、6)入所者A氏に対する介助量 はどの程度か(※軽度介助・中等度介助・全介助の3択)、7)移乗介助時に危険を感じた事はあるか、の7項目とした。〈BR〉アンケートは1)~7)の各項目をSpearmanの相関係数を用いて関係性の検証をした(有意水準5%以下)。また各項目を探索的記述統計にかけ、中央値の比較と項目ごとの自由記載部分を参考に移乗介助量が異なる原因やCWが何に対し困惑しているのか等の傾向を探った。
【結果】
7つの項目の相関関係について検討した結果、各項目に有意な相関は認められなかった。全てのCWが「移乗介助時に危険を感じている」と回答したが、年齢・経験年数・他施設勉強会への参加があるかないかなど全ての項目に関係性は認められなかった。また、年齢・経験年数の低いCWは、「移乗方法について先輩・後輩への指導や相談をする」「他施設の移乗介助勉強会への参加経験」が出来ていないと回答する傾向がみられた。移乗介助に関して「困難である」と回答したCWは、利用者1名に対してCW1名が行う移乗介助ではなく、利用者1名に対しCW2名で行う介助方法について疑問を持つ者が多く、「頭側の方の人の持ち方・支え方がよく分からない」「2人移乗のとき手を添える場所によって上手くいかず恐怖を感じる時があるため、もう一度基本を教えてほしい」等の回答がみられた。また、「移乗介助」に対しては、入浴やトイレ誘導をするための「作業」として捉えており、「機能訓練」の一環として捉えている理学療法士とは認識が大きく異なっていた。
【考察】
今回、CWに対する移乗介助の効果的な指導方法を実施するため、アンケート調査を行った。各項目に関して有意な相関はみられなかったが、1)各項目に関係なく全てのCWが移乗介助に危険を感じている、2)他施設の移乗介助勉強会への参加経験のない方がおり、特に若いCWが消極的である、3)先輩への相談・後輩への指導ができておらず、移乗介助技術の教育環境整備がなされていない、4)CW1名での基本的移乗介助以上に2名で行う介助方法が困難と感じている、5) 「移乗介助」を作業として捉えている等の課題が明確になった。理学療法士とCW間の認識の差異が明確となったことで、正しい認識の獲得・CWに対しそれらを「課題」として認識してもらう必要性が感じられた。また、CWによって移乗介助量が異なる原因を作る主な要因は「若年層の経験・知識不足」が考えられ、若年層への教育指導が特に重要であることが分かった。そして若年層のCWへの定期的指導や互いに相談可能な環境作りをすること、On the job training のシステムを整備すること等が現場教育の課題であると考えられた。研究の課題としては、さらに医療・介護施設の対象者を広げ、臨床場面での移乗介助指導のポイントを構築していくことが重要であると考えられた。
【まとめ】
本研究により、移乗介助量が異なる原因・CWが何に対し困惑しているのか・移乗介助に対する理学療法士とCWの考え方の差異に関する傾向を探ることが出来た。今後、これらの傾向を考慮することで、CWが臨床場面に活かすことの出来る移乗介助の指導方法に繋げていくことが可能になると考える。医療・介護保険分野において、理学療法士が他の職種に対してより専門的な介助指導を実践するために、今回の研究は意義があると考える。