東海北陸理学療法学術大会誌
第27回東海北陸理学療法学術大会
セッションID: O-10
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自宅退院を目標としてリハビリテーションを介入したホスピス入所患者の一症例
*久保田 一矢
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抄録

【はじめに】
今回、乳がんによりホスピスへ入所となった患者様を担当させて頂く機会を得た。
終末期がん患者の自宅退院は社会的制約などがあり困難な場合も多い。
患者様の病状は緩和的リハビリテーションの対象であったが、自宅へ退院したいと希望され、ご家族様も支援したいと考えていた。
症状は浮き沈みが大きかったものの、患者様、ご家族様をはじめスタッフ間で自宅退院という目標を共有し、リハビリを介入することでQOLの維持を支援した。 【説明と同意】
患者様ならびにご家族様に対し、症例検討という形での報告をさせて頂くことに対し説明を実施し同意を得た。
【患者情報】
患者様は60代女性の方。乳がんと診断され、告知を受けていた。
合併症として左硬膜転移、脳転移、骨転移を伴っていた。
右片麻痺と構音障害が主障害であった。
【理学療法評価】
意識レベルはほぼ清明でコミュニケーション可能。
自立心が高い性格で、他者の世話になることは好まれていない印象であった。
Performance statusのscoreは3~4。
右上下肢の運動麻痺はBrunnstrom `s recovery stage_IV_レベル。
麻痺以外に全身的な筋力低下がみられ、基本動作から中等度程度の介助量を要していた。
【初期経過】
ホスピス入所時はウィルス感染が疑われる発熱を伴っており、自力で起き上がれず、食事も取れない状態であった。入院10日後に発熱が落ち着いたところで理学療法士、作業療法士の介入が開始となった。
リハビリ開始後2週間程度は状態が安定しており、リハビリ室にて積極的な訓練を実施できた。 軽介助レベルでの歩行も可能な状態にまで改善したため、本人様、家族様ともに自宅退院を検討していた。
しかしその後急激に活動性が低下してしまい、MRI検査の結果、左大脳への浮腫拡大が確認された。
ほぼベッド上での生活となり、尿道カテーテル留置となった。
治療としてステロイドの静注が開始された。
【目標設定】
症状増悪を受けて、本人様、家族様へ今後の目標や希望の聞き取りを行ったところ、本人様は家に帰りたいと強く希望されていた。
家族様もその希望に添いたいと思われていたが、家庭の事情を考慮すると現状での退院は難しいと判断された。
しかし最低限一人の介助でトイレ動作ができれば外泊は考えたい、とも話された。
本人様の退院希望は否定せず、まずは外泊に向けてご家族様をはじめスタッフ間で連携した対応を取っていくこととした。
まず家族様が提示したポータブルトイレを使用し一人介助での動作が可能となることを最低条件とし、外泊から退院へつなげていく方針を共有した。
【理学療法アプローチ】
トイレ動作獲得に向け、ベッド周囲の動作練習から開始しトイレ動作へつなげた。
主な問題点は移乗時に膝折れが起き、立位が保てないことであった。
運動療法に加えベッド高の調整や病室のテーブルを上肢支持物として利用するなどの環境調整を実施した。
リハビリ中の様子は随時病棟看護師に伝え、実際の生活場面で家族を交えてトイレ動作を行った。また自宅の環境に合わせ、福祉用品の導入などの調整も実施した。
状態は改善と増悪があることがあらかじめ予想されたため、退院したいという発言は否定せず受容し、退院という目標に向かっているということを随時伝えていった。
その上で状態増悪時は基本動作練習など前段階からのリハビリを再開していった。
【最終経過】
ステロイドの効果もあり状態は安定。麻痺の改善もみられ、積極的にリハビリを実施できたため徐々にトイレ動作介助量が軽減していった。家族の介助が可能となった時点で医師と面談を行い外泊の日程を決めていった。
45病日目に外泊を達成され、病院へ戻られてからの活気も良好であった。 その後も状態は安定しており、見守り下でのベッド周囲動作が可能となったことで再び本人、家族とも退院を検討されるようになった。
しかし日程が決まる直前に再度状態が悪化し、退院は延期することとなった。
再度ステロイドが処方され、状態は安定へと向かった。
トイレ動作も何とか家族の介助で可能となったところで2度目の外泊に向かわれた。
その後は再び状態が増悪し改善みられず永眠されたが、前日まで病室には伺い、家族とのコミュニケーションを続けた。
【考察】
家に帰りたいという希望を考慮し、トイレ動作の獲得から外泊、退院へと段階的な目標を立てアプローチした。
状態が増悪した際もトイレ動作の獲得に向けてのリハビリを続けたことで、退院という目標に向かっているとう意識を持ち続けQOLの維持を支援することができたと考えた。

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© 2011 東海北陸理学療法学術大会
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