抄録
【はじめに】
今回、後脛骨動脈及び脛骨神経断裂し、縫合術後の患者様の後療法を担当する機会を得た。手の外科領域の神経断裂後の報告は数多く存在するが、足部損傷の報告は少ない。そこで治癒過程を考慮して、理学療法を行い、良好な成績を得たので、ここに報告する。
【症例紹介】
症例は70歳代男性で農業を営んでいた。既往歴は、右アキレス腱断裂受傷後、足関節可動域制限・跛行残存するが、農作業可能であった。草刈り機誤操にて受傷、出血多量にて、A病院到着直後に縫合術を施行された。
術後9日目にリハビリ目的で当院転院、同日理学療法処方となった。当院Drの指示は「腱損傷は不明」「底屈位・疼痛自制内にて足趾の自動運動・他動運動、足関節等尺性収縮可能」「術後3週まで底屈位固定後、足関節可動域訓練と疼痛自制内荷重開始」であった。
Needは「一人で歩きたい」「農業がしたい」であった。
なお、本発表にあたり、患者様へ説明を行い、同意を得ている。
【初期評価】
視診は、足関節全周に腫張著明で、発赤は軽度であった。術創長は160mmで、踵骨隆起直上37mmより起始し、内果下端と踵骨隆起間のほぼ中央を通り、第1中足骨頭から25mm内側底側に停止した。
足部全体に熱感認め、後脛骨動脈触知困難であった。
足趾は、自動伸展スムーズ、自動屈曲何とか可能で、MMTは、足部外来筋は長母趾屈筋(以下、FHL)2、長趾屈筋(以下、FDL)2、長母趾伸筋(以下、EHL)4、長趾伸筋(以下、EDL) 4 であり、足部内在筋は短母趾屈筋(以下、FHB)2-、短趾屈筋(以下、DB)2、短母趾伸筋(以下、EHB)4、短趾伸筋(以下、EDB 4)であった。
足部は、前脛骨筋(以下、TA)、後脛骨筋(以下、TP)、長腓骨筋(以下、FL)、短腓骨筋(以下、FB)、腓腹筋(以下、GA)、ヒラメ筋(以下、SOL)筋は足関節底屈位等尺性収縮可能であった。
ROMは、足関節屈位固定中で、足趾屈曲は低下している印象だが腫張著明なため精査困難であった。
疼痛検査は、安静時痛は術創に認められた。筋収縮痛増悪は認めず、伸張痛はFHL、FDLに認め、圧痛は術創に強いが、腫張著明のため、精査困難であった。
表在感覚は健患比にて評価し、内側踵骨枝10/10・内側足底神経7/10・外側足底神経7/10・伏在神経5/10、外側踵骨枝・外側足背神経10/10であった。
【治療内容】
・足関節底屈位でのEHL、EDL筋力訓練、疼痛自制内でのTP,FHL,FDL等張性収縮、ストレッチ
・MTPjt関節包、術創部のストレッチ
・母趾外転筋、FHB、FDBの等張性収縮、EHB、EDB筋力訓練
・疼痛自制内でのTA FL FB GA SOL等尺性収縮
・患部外訓練
修復過程を考慮し、3週目までは損傷組織完全伸張位を禁忌とし、3週後から、疼痛・循環・神経症状の著明な変化に注意しながら、腱・動脈・神経を最大伸張位へ近づけていった。
【結果】
ROM開始時に右足関節背屈5°、1/2FWBまで疼痛自制内で、両松葉杖歩行安定して可能であった。術後7 週にて、独歩時疼痛軽減し、独歩自立、術後8週にて独歩時疼痛消失した。術後12週にて、ROM左右差なし、筋力MMT4レベル、3~5趾底側のしびれ残存しているものの、階段昇降、自転車乗車可能で、Need満足となり、理学療法終了となった。
【考察】
術創より軟部組織の損傷が予想された。初期評価にて、MMTはFHL 2、FDL 2、TPは収縮可能であったことから腱不全断裂であると考えられた。後脛骨動脈は、出血多量、熱感著明、右後脛骨動脈触知困難より、完全断裂が予想された。脛骨神経は、支配筋が収縮可能で、表在感覚が脱失していないため、不全断裂であると考えられた。
中田らは、ハンドセラピー分野では神経断裂後、引っ張り強度がストレスに持ちこたえられるようになるまで3~4週間要し、腱断裂縫合後は、術後3週間は縫合腱の自動運動を禁止するという考え方を報告している。腱治癒過程より、術後7~10日は腱の引っ張り強度が弱まり、その後、徐々に強度が高まっていくことが知られている。Drより、底屈位・疼痛自制内にて足趾の自動・他動運動、足関節等尺性収縮可能との指示があったことから、腱の損傷は軽度であると推測されるため、術後10日目より疼痛自制内で、TP・FHL・FDLの収縮により腱滑走を促し、術創深部の癒着の予防を試みた。この際、脛骨神経や後脛骨動脈へ過負荷とならないように神経症状及び循環動態の変化に注意して実施した。結果、荷重開始時に背屈荷重可能でとなり、良好な後療法を実施することができたと考えられた。
【まとめ】
・右後脛骨動脈・脛骨神経断裂受傷し、緊急縫合術後の理学療法を経験した。
・腱、動脈、神経の損傷状況、治癒過程を考慮し、理学療法プログラムを立案、実施した。
・治癒過程を損なうことなく、ADLの改善、Needを満たすという良好な結果を得た。