抄録
【目的】肺血栓塞栓症/深部静脈血栓症(静脈血栓塞栓症)予防ガイドラインでは深部静脈血栓症(以下,DVT)の予防として早期離床が困難な患者では,自動的および他動的な足関節運動が推奨されている.また,先行研究においても足関節自動運動により下肢静脈血流が有意に改善するという報告は多々ある.これは骨格筋によるミルキング効果であり,足関節自動運動は下肢静脈血うっ滞を減少させることを目的としている.〈BR〉しかし,足関節自動運動時の筋収縮強度と下肢静脈血流変化についての報告はなく,詳細は不明である.〈BR〉そこで本研究では誘発筋電図によるM波を用い,神経筋電気刺激による最大筋力比(以下,%MVC)と静脈収縮期最高血流速度(以下,PSV)の関係を明確にすることを目的とし検討を行った.〈BR〉【方法】対象者は内科的,運動器的な機能障害がなく,静脈疾患の既往がない健常成人男性17名(年齢:22.1±3.9歳,身長:173.7±4.7cm,体重:71.3±16.1kg)とした.なお,被験者には本研究の趣旨を十分に説明し研究参加への同意を得た.〈BR〉M波の測定には,誘発電位装置を使用し,筋腹-腱導出法にて皿電極を用い,ヒラメ筋,アキレス腱に導出電極を貼付し,左下肢膝窩部で経皮的に脛骨神経を電気刺激し,M波を導出した.筋収縮強度はM波の振幅が最大となったところを最大筋力(100%MVC)とし, 100%MVCの振幅を基準に 75%,50%,25%の振幅をそれぞれ75%MVC,50%MVC,25%MVCとし算出した.〈BR〉PSV測定は,超音波診断装置を使用し,プローブはリニア深触子(7.5MHz)を用いた.被験者を体動がないよう安静背臥位とし,十分な休息後カラードプラ法にて左下肢の大伏在静脈を確認し,その位置でプローブを固定し,パルスドプラ法にて安静時PSVの測定を行った.その後,盲検化を目的に無作為に100%MVC,75%MVC,50%MVC,25%MVCを選択し刺激したときのPSVを測定し,比較検討を行った.〈BR〉統計処理には一元配置分散分析を用い有意差を認めた場合には,多重比較検定比較にGames-Howell法を用い検定した.なお,いずれの有意水準も危険率5%未満とした.〈BR〉【結果】各刺激強度でのPSVは,安静時5.0±5.2cm/sec,100%MVCでは20.3±7.5cm/sec,75%MVCでは19.6±8.5cm/sec,50%MVCでは15.5±6.0cm/sec,25%MVCでは12.2±6.4cm/secであった.一元配置分散分析の結果,有意差を認めた(p<0.01).Games-Howell法の結果,安静時と各%MVCでのPSV(p<0.01),100%MVCと25%MVCでのPSV(p<0.05)の間にて有意差を認めた.〈BR〉【考察】誘発電位装置での下腿三頭筋への神経筋電気刺激による%MVCを用いて筋収縮強度の違いによるPSVの変化について比較検討した結果,安静時と比較し100%,75%,50%,25%MVCでの筋収縮強度によりPSVが有意に上昇した.静脈還流の駆動力は骨格筋によるミルキング作用により促されるとされている.本研究の結果より安静時と比較すると25%MVC以上での下腿三頭筋収縮強度でミルキング作用が寄与しPSVが上昇したことが示唆された.〈BR〉また,100%MVCと25%MVC間でPSVの有意差を認め,%MVCの増加に伴いPSVが上昇する傾向がみられた.下腿三頭筋収縮強度を増すことにより筋収縮に参加する筋線維が増加し,ミルキング圧が増大することによってPSVが上昇したと推考された.〈BR〉以上より,ミルキング作用によるPSV変化は筋収縮強度が強いほど効果的であると考えられ,DVT予防としての足関節自動運動は下腿三頭筋の最大筋力での筋収縮強度が望ましいことが示唆された.〈BR〉また,理学療法場面で自動運動が出来ない患者において神経筋電気刺激によりミルキング効果があることが示唆され,臨床応用できると考えられる.〈BR〉今後の課題として,肺血栓塞栓症/深部静脈血栓症(静脈血栓塞栓症)予防ガイドラインではDVT予防として自動運動を推奨しており,自動運動による筋収縮力とPSV変化の関係についての検討,自動運動・弾性ストッキング等の他の予防法と神経筋電気刺激との検討をする必要がある.〈BR〉【まとめ】安静時と比較すると25%MVC以上の筋収縮強度でミルキング作用によりPSVが上昇することが示唆された.〈BR〉また,ミルキング作用は筋収縮強度が強いほど効果的であると考えられ,DVT予防としての足関節自動運動は下腿三頭筋の最大筋力での筋収縮強度が望ましいことが示唆された.