抄録
【目的】理学療法では,形態測定により身体各部の状態を把握し,筋厚,筋線維長,羽状角等の組織構造的要因(以下,内的要因)を推察しながらプログラムを展開している.形態測定の中の一つとして下腿最大周径測定がある.下腿最大周径は,この内的要因を反映した筋線維の集合体としての断面を評価していると考えられる.そのため,下腿形状を最も反映している下腿最大筋であるヒラメ筋構造に着目し,下腿最大周径と内的要因との関係性を明確にするとともに,個々の要因の関係性を確認し,筋構造を規定化する.また,筋力を決定する要因として,神経系の要因に加え,筋内的要因,筋線維数,筋線維タイプなども大きく影響すると言われている.本研究の目的として,下腿最大周径,ヒラメ筋内的要因,下腿底屈筋力との関係を検討することによって,下腿周径測定の意義を明確にし,評価要因を捉えた理学療法指標の再考に寄与することである.
【方法】対象は,足部に疾患既往の無い健常成人男性30名,女性20名,合計50名(平均年齢23±2歳)とした.対象者には口頭にて研究の主旨を説明し,研究参加の同意を得た.本研究は,聖隷クリストファー大学倫理委員会の承認のもと実施した.測定項目は,下腿長,下腿周径,ヒラメ筋内的因子,ヒラメ筋筋力である.被験側は右側とした.下腿周径は,腰掛け座位にて股・膝関節90°屈曲位,足関節底背屈0°にて測定した.ヒラメ筋内的要因を筋厚,羽状角,筋線維長とし,超音波画像診断により測定した.下腿周径・筋厚は,腓骨頭下端を0cmとし,1cm刻みで測定した.ヒラメ筋の筋力測定には,BIODEXを用い,加えて表面筋電図にて筋活動も記録した.運動課題は,5秒間の最大等尺性随意収縮を3回測定した.測定肢位は,股・膝関節90°屈曲位,足関節底背屈0°とした.統計的検討には,ピアソンの積率相関分析を用い,有意水準は危険率5%未満とした.
【結果】各項目の平均値,相関係数について,以下に全対象,男性,女性の順番で示す.各項目の平均値は,下腿最大周径(cm)36.4±3.5,38.1±3.1,33.8±2.3,ヒラメ筋最大筋厚(mm)13.2±2.9,14.8±2.2, 10.7±1.8,羽状角(°)14.8±3.7,17.0±2.5,11.5±2.6,筋線維長(mm)51.9±6.3,50.6±5.9,53.9±6.5,下腿底屈筋力(Nm)115.5±34.7,135.9±26.7,84.9±19.0, 筋電図積分値(mV)30.7±22.2, 27.1±19.8, 36.1±24.9,平均周波数(Hz)132.1±30.4,136.8±34.1,125±22.6であった.下腿最大周径との相関係数は,筋厚r=0.79,0.77,(-),羽状角r=0.72,0.59,(-),下腿底屈筋力r=0.61,(-),(-)となった.筋厚との相関係数は,羽状角r=0.86,0.63,0.86,下腿底屈筋力r=0.65,(-),(-)となった.羽状角との相関係数は,筋線維長r=-0.25,(-),-0.77,下腿底屈筋力 r=0.85,0.71,0.63となった.筋線維長との相関関係は,下腿底屈筋力 r=-0.54,-0.47,-0.68となった.なお,相関分析において,有意でない結果については,(-)で示した.
【考察】筋の内的要因と下腿最大周径, 筋力との間には関係性が認められた.特に筋厚,羽状角は相互に関係し,下腿最大周径,下腿底屈筋力とも関係した.筋厚と羽状角は,筋断面における筋線維の集合体と考えられる.羽状角は筋厚,筋線維長と関係するとともに,下腿最大周径,下腿底屈筋力とも関係した.特に下腿底屈筋力において,筋力決定要因としての筋の内的要因,神経系要因に影響を与えていると考えられる.筋線維長は,羽状角,筋力と負の関係があることが確認された.このことは羽状筋構造である筋線維長を短くして筋線維数を増やし生理学的断面積の総和を増大させるヒラメ筋の特徴を大きく反映していると考えられる.このことから,筋の内的要因と下腿最大周径, 筋力との間には関係性が認められた.特に筋厚と羽状角は筋線維の集合体としての要素,羽状角と筋線維長は筋力決定要因としての要素があるため,周径,筋力の把握には,筋の内的要因が関与していると考えられる.
【まとめ】筋内的要因を反映した下腿最大周径囲,下腿底屈筋力は,身体機能活動レベルだけでなく,筋組織構造的変化を伴う筋蛋白同化異化作用など活動状態,栄養状態の把握もできることが示唆された.このことにより適切な栄養治療や理学療法により障害予防,健康維持向上,QOLの向上に寄与できるものと考えられる.