抄録
【目的】
外反母趾変形は第一中足骨の内反,第一基節骨の外反を特徴とし,足部機能の障害をもたらす.また,先行研究により外反母趾の歩行時の特徴として歩行立脚後期に母趾での離床が出来なくなり,推進期の際の母趾での蹴り出しが不十分になるともいわれている.本研究の目的は外反母趾変形における足部形態・機能面及び歩行時足底圧に着目し健常足群と比較検討することである.
【方法】
対象は,今年度金沢市で行われた「第32回健康づくりフェア」に参加した日常生活に支障のない市民29名58足(69.7±6.7歳,男性9名,女性20名)とした.対象者には研究の趣旨を説明し同意を得た.測定項目は足部形態として(1)外反母趾角度(HVA)を計測し,HVAは高倉らの報告を参考にHVAが15°以上を外反母趾(男性2足,女性19足)とした.また,15°未満を健常(男性16足,女性21足)とした.なお,男女比を考慮し女性のみとした外反母趾群(HV群)と健常足群に区別した.(2)横アーチ長率(足幅を足長で除した値)(3)内側縦アーチ高率(アーチ高/足長×100).母趾の機能面として(1)日本整形外科学会が制定する関節可動域測定法による母趾MTP屈曲・伸展可動域(2)母趾屈筋力は石坂らによる母趾圧迫力の測定方法を用いた.また,歩行時の足圧分布をマットスキャン(ニッタ社製)にて測定した.歩行は自由歩行速度にて足圧計上に接地できるよう十分練習した後,自然立位からの一歩目を測定した.足圧測定の結果より本岡らによる分類を用い,足底圧中心(COP)軌跡を内側型・中央型・外側型に分類を行った.また,歩行立脚後期の最大圧を母趾,前足部内側,前足部中央,前足部外側に区分し比較した.統計は,HVAと足部形態・機能面の測定項目の相関を,Pearsonの相関係数を用いて分析し,健常足群とHV群の横アーチ長率,内側縦アーチ高率,母趾屈筋力,母趾MTP屈曲可動域,母趾MTP伸展可動域の各平均値の差の比較をF検定後に対応の無いt検定もしくはWelchの検定を行い,全ての分析の有意水準を5%未満とした.
【結果】
HVAと各測定項目との相関関係について母趾MTP伸展可動域,母趾屈筋力に相関は認められなかった.横アーチ長率(r=0.81),内側縦アーチ高率(r=-0.54),母趾MTP屈曲可動域(r=-0.40)に有意な相関が認められた.健常足群とHV群との各項目の平均値において母趾MTP伸展可動域(健常足群:66.1±5.8°,HV群:60.9±14.8°),母趾屈筋力(健常足群:2.2±1.8kg,HV群:1.7±0.9kg)には有意差はなく,横アーチ長率(健常足群:42.4±1.9%,HV群:46.5±2.9%),内側縦アーチ高率(健常足群:15.6±2.6%,HV群: 12.9±3.1%),母趾MTP屈曲可動域(健常足群:30.9±7.8°,HV群:27.1±4.6°)に有意差を認めた.歩行時COP軌跡の分類は,健常足群(21足中)において内側型5足(23.8%),中央型が16足(76.1%),外側型に相当するものはなかった.HV群(19足中)において内側型は4足(21.0%),中央型は15足(78.9%),外側型に相当するものはなかった.また,歩行立脚後期の前足部の最大圧において,健常足群(21足中)では母趾7足(33.3%),前足部内側2足(9.5%),前足部中央8足(38.0%),前足部外側4足(19.0%)であった.HV群(19足中)では,母趾4足(21.0%),前足部内側6足(31.5%),前足部中央5足(26.3%),前足部外側3足(15.7%),その他1足(5.2%)であった.
【考察】
歩行時COP軌跡に関して,HV群と健常足群の両群において中央型が多く,前足部の最大圧に関しても前足部中央が多い結果となった.一方,前足部内側の最大圧においてHV群では健常足群と比べ多い傾向となった.HV群は健常足群と比べ横アーチや内側縦アーチが低い傾向から,歩行立脚後期に前足部の剛性が保てず前足部が回内しそのため前足部内側の圧が高まった可能性がある.そして,その後の母趾への荷重伝達が困難になかったと考えられる.HV群の前足部のCOP軌跡において前足部内側から急激に母趾以外の他趾の方向へと移動する例もみられた.今回の結果より母趾屈筋力や母趾MTP伸展可動域においても各群の差はなかった.そのことからHV群における歩行立脚後期の母趾への荷重伝達時には単なる筋力や関節可動域以外の問題がある事が示唆された.今後はHV群の前足部のCOP軌跡についてより詳細に検討していきたい.