東海北陸理学療法学術大会誌
第27回東海北陸理学療法学術大会
セッションID: O-36
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開腹術後人工呼吸管理となった2症例への理学療法の経験
*中神 孝幸新屋 順子土屋 忠大山田 哲也笠松 紀雄池松 禎人田村 浩章
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抄録

【はじめに】近年,高齢者を対象とした手術が増加しており,術後の様々な合併症のため離床が困難となる症例が多い.高齢者は併存症を有することが多く,また術後に合併症を発症すると重篤になりやすく術前のADLに到達しない症例も経験する.今回,開腹術後,人工呼吸器管理となった2症例に対して理学療法(以下PT)を行った.人工呼吸管理が遷延し離床が困難な症例に対するPTの介入について検討し,報告する.尚,本発表にあたり本人に説明し同意を得ている.
【症例1】70歳代男性.診断名:S状結腸癌.現病歴:H22年8月下旬左下腹部痛,下血を認め,当院入院となった.9月上旬S状結腸,下行結腸切除,リンパ節郭清が施行された.1病日よりPTを開始した.6病日吻合部に縫合不全を認め,回腸人工肛門が造設された.12病日呼吸不全によって挿管人工呼吸管理となり,15病日に気管切開が施行された.急性腎不全を発症し22病日に透析を導入した.全身状態の悪化のためPTは中止していたが37病日に再開した.両側背部の無気肺が遷延しており背側の換気改善目的に前傾側臥位,呼吸介助などを実施した。48病日,人工呼吸器サポートチーム(以下RST)が中心となって外科,腎臓内科との合同カンファレンスを開催した.人工呼吸器離脱へむけた方針として,自発呼吸を促すために鎮静を終了し,経管栄養の増量により全身状態を改善させること,日中はTピース管理とし離床を進めていくことが決まった.翌日より早速,日中はTピース管理となり同日より端坐位訓練を開始した.起居動作,坐位保持は全介助を要した.四肢遠位筋優位に筋力低下を認めた.56病日より終日Tピースにて管理となり人工呼吸管理は終了となった.58病日に酸素投与は終了となった.65病日より経口摂取が開始となったが,長期の人工呼吸器管理により頚部の可動性,筋力低下を認め嚥下障害を来しており,PTにて対応した.68病日より車椅子乗車を開始しトランスファーは中等度介助を要した.75病日より歩行器にて歩行訓練を進め,中等度介助を要し易疲労性も認めた.歩行の自立,易疲労性の改善を目指し徐々に歩行距離や頻度を増やしていった.134病日より3食経口にて摂取となり,活動性が向上し以後ADL自立に至った.
【症例2】80歳代男性.診断名:横行結腸穿孔.現病歴:H23年4月中旬より腹痛のため,当院救急搬送の後,横行結腸穿孔の診断で同日ハルトマン手術,腹腔内ドレナージ術を施行した.術後は人工呼吸器管理となった.既往にCOPD(FEV1.0%:38.5%,%FEV1.0:46.5%)がありるい痩,低栄養状態も見られた.術後1病日よりPTを開始した.PT開始時,ミダゾラムにて鎮静中であった.側臥位での呼吸介助や排痰などを実施した.5病日より人工呼吸器離脱を開始することとなり鎮静を終了した.6病日Tピースにて自発呼吸トライアルを開始した.1時間後の血液ガス,循環動態,呼吸状態等が安定していたためその後抜管となった. 抜管直後にPTも介入した.介入時,頚部の呼吸補助筋の使用,呼気時の喘鳴を認め呼吸介助,排痰などを実施した.徐々に離床を進めたが,労作時の息切れや低酸素がみられ,基本動作の介助量が軽減せず離床は遅延していた.介助量の軽減,歩行の獲得を目標に呼吸状態に留意し運動療法を進めた.9病日より経口摂取が開始となったが,経口摂取が進まないため16病日より経管栄養へ変更となった.26病日より歩行器にて歩行訓練を開始した.経過に伴い呼吸状態は安定し,32病日に酸素投与が終了となった.37病日より経口摂取が開始となり徐々に食事摂取量も増えていった.それに伴い活動性,歩行能力が向上し40病日にトイレ歩行が自立となった.
【考察】開腹術後,人工呼吸管理となった2症例を担当した.症例1では人工呼吸器離脱が遅延したが,RST介入により抜管に向けたチームアプローチがなされ離脱に至った.離脱後は長期人工呼吸器管理による様々な合併症を呈していた.それぞれの症状に対応しながらPTを実施していき,術前ADLの獲得に至った.症例2では抜管に際して,プロトコールに従った計画的な抜管がなされた.離脱後は,既往のCOPDのために呼吸状態に留意して運動療法を進めた.術前からの既往症や高齢のため,術前ADLの獲得は困難と思われたが,栄養状態の改善とともに積極的に離床が進み,概ね術前のADLに到達することができた.2例の経過より,術後人工呼吸器の離脱からADL能力の獲得のためには,チーム医療により統一した方針で介入すること,全身状態や治療経過を把握した上で術後合併症や既往症へ適切に対応することが重要であると考えた.

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© 2011 東海北陸理学療法学術大会
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