東海北陸理学療法学術大会誌
第27回東海北陸理学療法学術大会
セッションID: O-35
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静的ストレッチングの持続時間の違いが筋の局所酸素動態に及ぼす影響
*松尾 英明久保田 雅史嶋田 誠一郎北出 一平亀井 健太野々山 忠芳鯉江 祐介成瀬 廣亮五十嵐 千秋生田 雄内田 研造馬場 久敏
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抄録
【目的】  ストレッチングの目的の一つとして局所血液循環の改善がある。臨床的には静的ストレッチングが広く行なわれており,その適切な持続時間について様々な報告がある。しかし,静的ストレッチングの持続時間の違いによる影響を,局所循環動態の観点から検討した報告は少ない。近赤外線分光法(NIRS)は,近赤外線光が通過した組織内にある血液のヘモグロビンの酸素化状態を測定でき,組織内の酸素動態,循環動態を推定する事ができる。そこで本研究の目的は,NIRSを用いて静的ストレッチングの持続時間の違いが筋の局所酸素動態に及ぼす影響を明らかにする事とした。
【方法】  対象は健常成人男性7名(年齢29.4±4.5歳, BMI24.0±3.9kg/m2)とした。被検者には研究の主旨を説明し同意を得た。測定肢位は背臥位とし,右下腿最大周径部の腓腹筋内側頭の直上の皮膚にNIRS装置(NIRO-200NX:浜松ホトニクス社)のプローブを下腿長軸方向に装着した。被検者の右膝関節を完全伸展位に保持し,足関節CPM装置(アンクルストレッチャー:山陽電子工業)に下腿から足部を固定した。
 被検者には測定前に十分に安静を保たせた。実験の手順は,足関節底屈30°位を5分間保持し,その後ストレッチングを行い,さらに開放後に足関節底屈30°位で10分間保持させた。この間,連続的にNIRSによる計測を行った。ストレッチングは,足関節CPM装置により20Nmの一定のトルクで持続的に背屈位に保持して行った。ストレッチングの持続時間は20秒間,1分間,2分間,5分間の4条件とし,測定順は無作為化した。
測定項目は,筋内酸素動態の指標として酸素化ヘモグロビン量(O2Hb)及び脱酸素化ヘモグロビン量(HHb),組織酸素飽和度(Tissue oxygen index:TOI),筋血液量の指標として総ヘモグロビン量(tHb)とした。
NIRS装置のサンプリングタイムは0.5秒間隔とし,これを10秒間毎に平均化した。ストレッチング開始直前の安静60秒間の平均値を安静値とし,ストレッチング中及びストレッチング後の変化は10秒間毎の平均値から安静値を引き,?Hbとした。ストレッチング中及びストレッチング後における各?Hbの最大値あるいは最小値をピーク値とし,各条件間で比較した。統計には一元配置分散分析を行い,post hoc testとしてBonferroniの多重比較を用いた。有意水準は5%とした。
【結果】   1.筋血液量及び筋内酸素動態の経時的変化
 ストレッチング開始から約20秒後まで各指標は安静値から一時的に減少した。その後,ストレッチング中では持続時間の延長とともに,?O2Hb,?TOI はさらに減少し,?HHbは増加した。?HHbは,1分間,2分間,5分間の3条件で安静値を超えて増加し続けた。?tHbは,持続時間に関わらず安静値より減少した値で一定に維持されていた。ストレッチング終了後,減少していた?O2Hb,?TOI,?tHb は急激に増加し,約30秒後に安静値を超えた値で一定となった。一方,ストレッチング中に増加していた?HHb は,ストレッチング終了後に急激に減少し,約30秒後に安静値より低下した値で一定となった。これらの傾向は全例で類似していた。
2.ストレッチング中の各指標のピーク値とストレッチングの持続時間の関係
ストレッチング中の?tHb のピーク値は,各条件間に有意差を認めなかった。ストレッチング中の?TOIのピーク値は,持続時間の延長とともに減少を認め,20秒間と1分間の条件間以外の全ての条件間に有意差を認めた。
3.ストレッチング終了後の各指標のピーク値とストレッチングの持続時間の関係
ストレッチング終了後の?tHbのピーク値は,持続時間の延長とともに高値を示した。?tHbのピーク値は,5分間,2分間の2条件では,20秒間条件と比べて有意に高値を示し,5分間条件は1分間条件より有意に高値を示した。ストレッチング終了後の?TOIのピーク値は,持続時間の延長とともに高値を示した。?TOIのピーク値は,5分間,2分間の2条件では,20秒間条件と比べて有意に高値を示した。
【考察】  本条件下では,静的ストレッチングの持続時間がストレッチング中の筋血液量へ与える影響は少ない事が明らかとなった。また,ストレッチングによる筋の伸張は,筋内の血管を伸張し,血管径の減少や,筋内圧の上昇を引き起こす事が報告されており,筋内の血流は停滞すると考えられる。そのため,ストレッチングの持続時間が延長すると,筋内の血液に脱酸素化が進行し,ストレッチング後に脱酸素状態を改善する反応が必要になっていると考えられた。
【まとめ】  本研究では,静的ストレッチングの持続時間の違いが,ストレッチング中及び終了後の筋血液量,筋内酸素動態に及ぼす影響を検討した。静的ストレッチングの持続時間の延長は,ストレッチング中に一時的な酸素不足状態を惹起する事が示唆された。
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© 2011 東海北陸理学療法学術大会
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