東海北陸理学療法学術大会誌
第27回東海北陸理学療法学術大会
セッションID: O-04
会議情報

乳児の認知機能発達:目と目を合わせることの重要性を脳科学により検証する
*浦川 将坂井 奈津子高本 考一堀 悦郎石川 亮宏小野 武年西条 寿夫
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録
【目的】 リハビリテーションの臨床場面において、患者さんや他の医療スタッフとコミュニケーションを成立させることは、よりよい医療実現のためには必要不可欠である。広汎性発達障害は、他者とのコミュニケーション能力や、社会性の獲得といった人間の基本的な機能の発達遅滞を特徴とする発達障害であり、自閉症やアスペルガー症候群が含まれる。このような発達障害により、目と目を見つめ合うことや、顔の表情変化から相手の気持ちを汲みとることが困難となることが多い。多くの場合、3歳児までに発達障害に気付くとされるが、アイコンタクトによる認知機能の発達過程と、乳児の脳活動に関してはほとんど報告がない。 本研究では、乳児への認知課題として「いない・いない・バー」を呈示し、アイコンタクトの有無による乳児視線挙動と前頭前野脳活動の変化を比較解析した。 【方法】 対象は5-8カ月の乳児8名とし、母親にも実験に参加して頂いた。椅子に座った母親の膝の上に乳児を保持させ、実験中の体動や上肢の動きを制御した。実験開始前に、視線認識解析用アイトラッカーおよびモニターを、乳幼児から50-60 cm離れた位置に設置し、乳児にモニター画面を固視させることにより、視線の位置をキャリブレーションした。その後、乳児の前頭部に乳児頭部測定用のヘッドパッド(島津製作所製)を装着し、近赤外線分光装置(島津製作所製)により前頭部の酸素化ヘモグロビン(Oxy-Hb)濃度変化を測定した。認知課題は、乳幼児から80-90 cm離れた位置に実験者(すべての実験を通して同一の女性)が座り、両手で顔を隠した状態で「いない・いない」の3秒間の後、両手を顔の左右に広げるとともに「バー」と5秒間実験者の顔を呈示した。「いない・いない・バー」の呈示は、実験者の背後に設置したスピーカーから、録音した音声を出力した。「バー」の呈示時には、実験者が乳児の目を注視する(アイコンタクトあり)場合と、実験者が右もしくは左斜め前方30度方向に視線をずらす(アイコンタクトなし)場合の2条件を設定した。30-60秒間の安静後、再び「いない・いない・バー」を呈示し、再び安静とする試行を10-30回行った。本研究は富山大学倫理委員会の承認を得て、倫理規定に基づいて行った。 【結果】 乳児の視線解析では、「バー」呈示期間中に乳児がどこを見ていたかを評価した。全課題の解析では、顔の領域を見ている時間が長く、特に相手の目の領域を注視している時間が48%を占めていた。さらに、アイコンタクトのある場合は平均1.75秒、アイコンタクトのない場合は平均1.10秒と有意にアイコンタクトがある場合に相手の目の領域を見ている時間が長かった(P < 0.05)。脳活動は、アイコンタクトのない場合は、前頭前野の活動がみられないのに対し、アイコンタクトがある場合は有意に前頭前野の活動(Oxy-Hb濃度変化)が上昇した(P < 0.001)。 【考察】 本研究における課題「いない・いない・バー」は、日本だけでなく世界中で行われている乳幼児とのコミュニケーション方法のひとつであり、とくに母子間で頻繁に行われている。本研究により、コミュニケーションをとろうとする側(実験者)から積極的に注視することにより、受けとり側(乳児)とのアイコンタクト効果が増強することが判明した。この時、乳児の脳では、前頭前野最前部の活動が亢進した。コミュニケーションに重要とされる心の理論とは、他者の心の動きを推し量り、他者が自分とは違う心を有していることを理解する脳機能のことである。この心の理論に関与する脳領域の一つが前頭前野であり、特に最も吻側に位置する前頭極は、自己の内的な心の表象を行動に移行させる脳領域とされている。本研究においてアイコンタクト時に同領域の活動が亢進したことは、乳児においてもアイコンタクトに関与する脳領域がすでに機能しており、コミュニケーション成立のために前頭前野の活動が重要であることを示唆する。さらに、これらアイコンタクトを伴うコミュニケーションは乳児の言語機能の発達を促進することが報告されているが、本研究結果よりアイコンタクトが前頭前野を賦活することに関係があると考えられる。 【まとめ】 リハビリテーション遂行に重要なコミュニケーションの発達に関わる脳領域を明らかにするため、乳児被験者を用いて視線行動および脳活動を解析した。乳児においても、コミュニケーション時の実験者の注視によりアイコンタクトが増強し、さらに前頭前野の活動が増大した。より良いリハビリテーション医療のためには、とくに乳幼児など低年齢児を扱う場合は、目と目を合わせてコミュニケーションをとることが重要であると考えられる。
著者関連情報
© 2011 東海北陸理学療法学術大会
前の記事 次の記事
feedback
Top