東海北陸理学療法学術大会誌
第27回東海北陸理学療法学術大会
セッションID: O-05
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運動開始時の酸素摂取動態における制御因子のtipping pointに関する検討
*藤田 大輔久保 裕介西田 裕介
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抄録

【目的】
 一段階運動負荷試験における酸素摂取量の立ち上がりの速さは,τV(dot)O2と呼ばれ,このτV(dot)O2を制御する因子は酸素供給系と酸素利用系に分けられている。τV(dot)O2を制御している因子は,酸素供給系が第一制御因子となり,ある境目(tipping point)を超えると酸素利用系が制御因子となる“tipping point theory”によって説明がなされている。τV(dot)O2の制御因子は,概ね健常者では,酸素利用系が制御因子となり,高齢者や心疾患患者などでは酸素供給系が制御因子となることが報告されている。しかしながら,先行研究では,健常者において酸素供給系が制御因子とならない条件として高強度の前運動を挿入した際,τV(dot)O2は30秒を境目に加速する群と加速しない群に分けられたと報告している。そのため,健常者においても酸素供給系が制御因子となり得ることが示唆されていることから,τV(dot)O2の制御因子の評価を誤る可能性がある。そのため,τV(dot)O2の遅れを解明する際にtipping pointを明確にする必要がある。本研究では,最大下運動負荷試験時のpeak HRの結果から,各対象者が目標心拍数に達している群(Achieved 群)と達していない群(Non-achieved群)の2群に分け,τV(dot)O2の制御因子について検討した。
【方法】
 対象は,健常成人男性18名(年齢:20±1歳,身長:170.1±6.0cm,体重:63.4±6.8kg)とした。測定機器は,自転車エルゴメータと呼気ガス分析装置,近赤外線分光法装置を使用した。データ測定は5日間実施した。まず,1日目には最大下運動負荷試験によって嫌気性代謝閾値(AT)と最高酸素摂取量(peak V(dot)O2)を測定した。運動終了基準は,Borg scale(原型)にて18となった場合もしくはカルボーネンの処方心拍数における最大心拍数の85%に達した場合,異常心電図が検出された場合とした。次に,2-5日目にはATとpeak V(dot)O2時の自転車エルゴメータのWatt数を足して2で割った負荷量を前運動として6分間挿入し,20Wに設定した6分間の下肢クランク運動後に,AT80% Wattにて6分間の一段階運動負荷試験を実施し,τV(dot)O2とτDeoyHbを測定した。群分け方法は,運動終了基準である目標心拍数の平均値から標準偏差の3倍を引いた値をカットオフ値として算出した。この際,目標心拍数に達している場合をAchieved 群とし,達していない場合をNon-achieved群とした。そして,各群におけるτV(dot)O2とτDeoxyHbとの間の相関関係をPearsonの積率相関係数によって求め,各群の変数の比較には,独立したサンプルのt-検定を用いた。統計学的有意水準は,危険率5%未満とした。なお,本研究は,聖隷クリストファー大学倫理委員会の承認のもと実施し,対象者には口頭並びに書面にて同意を得た。
【結果】
 最大下運動負荷試験におけるpeak HRの平均値は182.0±2.0bpmとなり, 2群に分ける際の基準となるpeak HRは176.0bpmとなった。各群におけるpeak HRとτV(dot)O2,τDeoxyHbの平均値は,Achieved群では180.0±3.0bpm,32.2±6.8秒,14.8±4.1秒,Non-achieved群では161.0±14.0bpm,35.9±4.5秒,12.7±3.3秒となり,群間での比較では,peak HRに有意な差を認めたが,その他の変数に有意な差は認められなかった。次に,各群におけるτV(dot)O2とτDeoxyHbとの相関係数は,Achieved群では0.73(p<0.05)となり,Non-achieved群は-0.28(p=0.47)となった。
【考察】
 本研究の結果より,176bpmを境目として群分けをしたAchieved群とNon-achieved群では,τV(dot)O2に差はないのにもかかわらず,τDeoxyHbの反応性が異なることが明らかになった。つまり,peak HRが176bpm以上の場合においてτV(dot)O2とτDeoxyHbは正の相関関係があったことより,τV(dot)O2を制御している因子は酸素利用系であると考えられるが,peak HRが176bpmより下回る場合には,酸素利用系がτV(dot)O2を制御せず,酸素供給系によって制御されていることが示唆された。また,Achieved群とNon-achieved群でτV(dot)O2に差がなかったことは,Non-achieved群において毛細血管レベルの酸素供給の減少によって酸素利用系が賦活したためであると考えられる。
【まとめ】
 本研究の成果は,最大下運動負荷試験におけるpeak HRが176bpmを境目にτV(dot)O2の制御因子が異なることを示したことである。この成果によって,最大下運動負荷試験におけるpeak HR=176bpmをtipping pointの1つとして示唆することができ,τV(dot)O2の制御因子を解釈する際の精度を高めることができたと考えられる。

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