東海北陸理学療法学術大会誌
第27回東海北陸理学療法学術大会
セッションID: O-40
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足趾把持筋力が平衡機能に及ぼす影響
*西尾 優華橋場 貴史
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抄録

【目的】転倒は平衡機能の低下等によって引き起こされるが、その平衡機能に関する因子の中でも足趾把持筋力(Toe Grasp Power:TGP)の機能(役割)が注目されてきている。TGPは加齢とともに減少し、特に転倒経験者は非転倒経験者と比べて有意に低く、TGPの弱化は転倒発生の要因とする報告やTGPが強いことが動揺面積を減少させ、TGPのトレーニングにより転倒の危険性を減少させるという報告などがある。しかし平衡機能を妨げる因子が少ない若年者での報告や男女差を述べたものは散見する。以上のことから、本研究の目的は、若年健常成人を対象にTGPと重心動揺(総軌跡長、外周面積、矩形面積)を測定し、TGPが平衡機能に与える影響について検討し、TGPと重心動揺の関係を明らかにすることである。 【方法】対象は若年健常成人26名であり、内訳は男性13名、年齢20.9±0.3、身長172.2±4.7cm、体重64.6±8.9kgであり、女性13名、年齢20.9±0.4、身長160.2±5.0cm、体重53.8±6.9kgであった。下肢に骨折、靭帯損傷などの既往がある者は除外した。研究においてデータ収集の目的、使用用途、プライバシーの保護等を説明し同意を得られたものを対象とした。〈BR〉重心動揺における測定項目は総軌跡長(cm)、外周面積(cm2)、矩形面積(cm2)とし、重心動揺測定システムマットスキャン(ニッタ株式会社,MSS-0018)を使用して片脚開眼立位での重心動揺を30秒間、計2回測定し総軌跡長が小さい方の値を採用した。測定は頭頸部中間位にて、両上肢は体側に下垂し、裸足で行った。測定中は、3m前方の視線と同じ高さの点を注視させた。TGPの測定は足趾力計測器チェッカーくん(日伸産業株式会社)を使用してTGPを左右2回ずつ測定し、左右各々高い方の値を採用した。測定肢位は椅子座位とし、測定回数は一側につき練習1回、本番2回の休憩(1分程度)を挟みながら行った。また踵を離さないようにすること、膝の位置を左右にずらさないこと、呼吸を止めないことを指導した。〈BR〉データ処理は、測定した左右各々のTGPより体重にて補正した体重比TGP(%TGP)を算出した。統計処理は%TGPの強い側と、%TGPの弱い側の重心動揺各項目(総軌跡長、外周面積、矩形面積)の測定値の比較には、対応のあるt検定を用いた。%TGPと重心動揺各項目の測定値との関連性の検討には、ピアソンの相関係数を用いた。統計解析ソフトは、Microsoft Excel 2010を用い、各統計における有意水準は5%未満とした。 【結果】%TGPの強い側と、%TGPの弱い側の重心動揺各項目の測定値(総軌跡長、外周面積、矩形面積)を各々比較した結果、どの項目においても有意な差は認められなかった。男性の%高TGPと同側の片脚立位での外周面積(r=-0.80,p<0.01)及び矩形面積(r=-0.63,p<0.05)の間には負の相関が認められた。女性の%高TGPと、同側の片脚立位での重心動揺各項目との間にはいずれも相関は認められなかった。 【考察】本研究では、若年健常成人26名を対象に、TGPが平衡機能に与える影響を検討した。%高TGPと重心動揺との関係については、男性の%高TGPと外周面積及び矩形面積との間に負の相関が認められた。動的姿勢制御能とTGPとの関係を分析した結果、TGPが強いことが動揺面積を減少させることを示唆し、TGPの強弱が垂直面での動的姿勢制御能に関与していると報告されていることから、本研究でも男性に関しては、TGPの強い側で重心動揺が小さいことがわかり、TGPの強弱が身体の安定性に関与していると考えられた。しかし女性では、%高TGPと重心動揺と関係は認められず、その他要因のよる影響が考えられ、男性とは明らかにちがう傾向が見られた。〈BR〉今回は若年者で検討したが、性差が認められたこと、また男性においてはTGPが姿勢制御能に関係があったことは、高齢者の転倒リスクとなっている平衡機能因子の1つであるTGPの機能強化も必要であるが、評価やアプローチも男女間では違った視点で行う必要があるのではないかと考えられた。 【まとめ】TGPと平衡機能について、男性ではTGPが強ければ重心動揺は小さいという関係が認められたことから、若年健常成人においてもTGPの強弱が身体の安定性に関与していると考えられた。平衡機能の低下により転倒が引き起こされ、その平衡機能の因子の1つとしてTGPが挙げられることから、若年期からのTGP強化が重要になってくるのではないかと考えられた。

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