主催: 東海北陸ブロック理学療法士協議会
【目的】
肩関節周囲炎の主症状として疼痛や関節可動域制限がある.予後は一般的に疼痛が3ヵ月程度で治まり,1~2年以内に症状が軽快するとされている.しかし長期経過観察例では疼痛や関節可動域制限が60%残存したという報告がある.また適切な治療を受けなかった場合,日常生活に障害はないものの何らかの愁訴を訴えるとされており,必ずしも自然治癒するとは限らない.
肩関節周囲炎に対するリハビリテーションは運動療法,物理療法が主であるが,有効な治療法は確立されていない.肩関節周囲炎患者の特徴として不良姿勢が挙げられ,姿勢矯正の指導も大切とされている.肩関節周囲炎患者の姿勢の特徴として,頭部は前方へ突き出し,胸椎は過度に後弯,肩甲骨が外転・前傾し,相対的に肩関節は伸展位となる.このような不良姿勢が頸部,肩甲骨周囲筋の筋緊張を助長し,肩関節可動域の制限をさらに悪化させている一要因と考えられる.また肩関節挙上動作には,脊柱・肩甲骨の運動が関与しているため,肩関節周囲炎患者に対して脊柱・肩甲骨に対してのアプローチも重要と考えられる.
ここで,日本コアコンディショニング協会が提唱するストレッチポール(以下,SP)を使用したエクササイズがある.SPを使用したエクササイズには,脊椎・肩甲骨リアライメント効果があり,姿勢矯正に有効であることが示唆されている.そこで今回,肩関節周囲炎患者に対して,SPを使用した不良姿勢へのアプローチが姿勢矯正またそれに伴い,肩関節可動域が改善するのかを検証した.
【方法】
対象は当院を外来受診し,肩関節周囲炎の診断を受けた6名(男性2名・女性4名,右肩4例・左肩2例,平均年齢53.7±6.3歳)とした.有症期間は約5.0±1.2ヵ月であった.訓練内容としてSP上でのベーシックセブン(以下,B7)7~10分間,SSP15分間,ホットパック15分間を週に1~3回の頻度で計40分程度実施した.B7は,疼痛を伴わない範囲の運動で実施した.初診時に姿勢評価として壁から外耳孔までの距離(以下,頭部前方突出距離),第3胸椎棘突起・肩甲骨内側縁間距離の左右差(以下,肩甲骨位置の左右差)を測定し,肩関節可動域は屈曲,外転を測定した.頭部前方突出距離,肩甲骨位置の左右差はテープメジャーを,肩関節屈曲,外転はゴニオメーターを使用し,日本整形外科学会と日本リハビリテーション医学会評価基準の測定法に基づき,測定した.また上記評価内容を2週毎に治療介入後に測定し,8週間の経過をおった.なお対象者には,口頭,および文書にて説明し,同意が得られた者のみを対象とし,訓練・測定を実施した.
【結果】
頭部前方突出距離は初診時12.9±0.9cm,2週後12.3±1.3cm,4週後11.8±1.2cm,6週後11.5±1.2cm,8週後11.1±1.2cmであった.肩甲骨位置の左右差は,初診時1.17±0.31cm,2週後0.57±0.41cm,4週後0.40±0.38cm,6週後0.27±0.33cm,8週後0.25±0.34cmであった.また肩関節屈曲角度は,初診時101.7±13.1°,2週後130.0±12.9°,4週後140.0±10.4°,6週後146.7±12.5°,8週後151.7±12.5°,肩関節外転角度は,初診時86.7±16.2°,2週後109.2±11.7°,4週後115.8±13.4°,6週後126.7±12.8°,8週後133.3±9.9°であった.
【考察】
今回,姿勢矯正と肩関節可動域改善の要因として,SPによる脊椎・肩甲骨のリアライメント効果により,頸部,肩甲骨周囲筋の筋緊張が緩和したことが考えられる.また先行研究で実施されていたリハビリテーションでは,平均屈曲角度140°獲得期間が,治療開始から8~28週であったが,今回SPを使用したB7を施行した場合,平均5.7±2.7週程度であり,治療期間の短縮がみられた.さらに先行研究同様,運動療法開始から2~4週で関節可動域に大きな改善がみられた.加えて姿勢矯正,肩関節屈曲,外転可動域の持続的な効果があり,即時性・持続性が示唆された.
またSPの利点として簡便に使用が可能ということが挙げられ,肩関節周囲炎患者に対してSPを使用したB7が姿勢矯正,肩関節可動域改善に有効な治療手段であることが示唆された.今後の課題として対象者数と評価内容・項目をさらに検討していく必要性があると考えられる.
【まとめ】
今回の検証によって,肩関節周囲炎患者の姿勢矯正効果,肩関節可動域の改善が認められた.また即時性・持続性も認められた.よって,肩関節周囲炎に対してSPが姿勢矯正,肩関節可動域改善に有効な治療手段の1つであることが示唆された.