抄録
【目的】
肩関節周囲炎は、肩関節の疼痛と関節可動域制限を主とする種々の疾患の総称です。
今回、肩関節周囲炎のうち、腱板機能に障害のある者を対象に、X線画像を用いて肩関節可動域(Reng of motion:以下ROM)制限に影響する因子の検討を行いました。X線画像の検討として肩峰骨頭間距離(Acromiohumeral Interval:以下AHI)は、腱板断裂により第二肩関節の機能的狭窄を把握するものです。AHIの上腕骨頭最大径(Humeral Head Diameter:以下HHD)に対する比(以下A/H比)は、AHIの問題点である体格差を考慮し、必要とされる関節裂隙距離を骨頭径比として表したものです。肩甲骨関節窩のHHDに対する比(Glenohumeral index:以下GHI)は、肩甲上腕関節を把握する為に使用されるものです。これら3つを用いて測定された数値と肩関節ROMの関連について検討しました。
【方法】
対象は、平成21年12月から平成23年3月までに当院を受診され、医師が診断目的でX線撮影した肩関節正面像があり、疼痛及び肩関節ROM制限のある肩関節周囲炎と診断された症例で理学療法士が3週間以内に関節可動域測定(Reng of motion test:以下ROM‐T)を行い、整形外科的検査で腱板機能に障害があると考えられた、27症例28肩(女性15名、男性12名。平均年齢65.7±12歳)を対象とした。
X線画像での測定は、肩関節X線正面像からAHI・HHD・肩甲骨関節窩最大径をFUJIFILM、SPINE2電子画像の画像処理を用いて測定し、測定した数値からA/H比・GHIを算出しました。肩関節ROM-Tは、肩関節屈曲、外転の関節可動域を日本整形外科学会・日本リハビリテーション医学会が制定する方法に準じ、ゴニオメーターを使用し、端座位姿勢で測定を行います。腱板機能の検査は、SSP full can test、SSP empty can test、ISP test、Belly press testを用いました。その結果を、肩関節ROM-T とAHI、A/H比、GHIの相関関係を検討しました(P<0.01)。相関関係の判定には、PEARSONの積率相関係数を使用しました。
【結果】
肩関節ROM-Tの平均は、屈曲133.7±21°、外転118.4±32.3°でした。肩関節X線正面像測定からAHIの平均は、8.6±1.4_mm_、HHDの平均は、46.3±3.8_mm_、肩甲骨関節窩最大径の平均は、34.84±3.2_mm_でした。この数値からA/H比、GHIを算出しました。A/H比の平均は、0.178±0.05(17.8%±5%)、GHIの平均は、0.753±0.05(75.3%±5%)でした。次に相関の結果です。AHIと肩関節ROM-T屈曲は、‐0.17、AHIと肩関節ROM-T外転は、‐0.08(P>0.01)でした。A/H比と肩関節ROM-T屈曲は、‐0.21、A/H比と肩関節ROM-T外転は、‐0.14(P>0.01)でした。GHIと肩関節ROM-T屈曲は、‐0.58、肩関節ROM-T外転は、‐0.51(P<0.01)でした。
【考察】
今回の結果から肩関節屈曲・外転ROM とAHI・A/H比の間には、有意な相関を認めませんでした。
AHIは、腱板断裂を疑う指標であり、正常値は、7~14_mm_である。今回、AHI平均は8.6±1.4_mm_であり、正常範囲内であった。その為、すべての対象で、肩関節挙上動作時、上腕骨頭は烏口肩峰アーチの下方を衝突せず通過していると考えられ、ROM制限因子にならず、AHIと肩関節屈曲・外転の間に有意な相関を認めなかったと考られた。また、A/H比もAHIを反映した検査の為、同様の結果と考えられました。
しかし、肩関節屈曲・外転とGHIの間に、有意な負の相関を認めました。GHIは、肩甲上腕関節の個人差を把握する為に使用される測定法であり、正常値は、75.3%±3.9%です。肩甲上腕関節の挙上動作は、三角筋の作用により、上腕骨頭が肩甲骨関節窩に対し上方へ転がり、腱板機能により下方への滑りが生じます。今回の結果から、GHIは、75.3%±5%であり、標準偏差にわずかな相違がみられた。その為、GHIが大きいほどROM制限が大きく、有意な負の相関を認めたと考えられた。
【まとめ】
今回、腱板機能に障害がある肩関節周囲炎を対象にAHI・A/H比・GHIの数値を使用して肩関節ROMとの関連について検討しました。結果は、肩関節ROMとAHI・A/H比の間に有意な相関を認めず、GHIの間に有意な負の相関を認めました。腱板機能に障害がある肩関節周囲炎では、AHI・A/H比への影響はなく、GHIが大きいほど腱板機能にかかる負担が増し、肩関節挙上動作時の肩甲上腕関節に生じる下方への滑りが阻害され、有意なROM制限を生じたと考えられた。
これらより、腱板機能に障害がある肩関節周囲炎では、GHIが肩関節ROM制限の有意な一因子であると考えられた。しかし、今回の結果からGHIの有用性を高めるには、腱板機能に障害がない肩関節周囲炎との比較等が必要と考えられGHIの有用性が示唆されただけである。この事から今後も検討していく必要があると考えます。