抄録
【目的】
変形性膝関節症(以下膝OA)に対しては、人工膝関節全置換術(以下TKA)前後の歩行速度や筋力、関節可動域の関係など様々な報告がなされているが、重心動揺、足部の二点識別覚、足指把持筋力などの報告は少ない。そこで今回、我々は重心動揺、足部の二点識別覚、足指把持筋力などを測定し、それぞれの測定項目が膝OAやTKAの今後の治療に生かされる知見を見出すことを目的とした。
【方法】
被検者は膝OA患者、男性5名、女性9名の計14名、平均年齢74.4±6.3歳で、TKAを施行し、神経疾患等の既往歴のない当院3週間クリニカルパス(平均在院日数22.6±3.1日)を適用したものとした。手術前日と術後3週の退院日前に10m歩行時間、関節可動域、二点識別覚、足趾把持筋力、重心動揺を測定した。10m歩行時間は自由速度での歩行時間を測定し、関節可動域は日本整形外科学会が定義する検査法により測定した。二点識別覚ではノギスを用い、二点として識別できる最小距離を、踵部、小指球部、母指球部で測定した。足趾把持筋力については、先行研究に準じて電子握力計を用いた測定器を作成し、膝関節90°足関節0°位の椅子座位にて2回測定した。重心動揺は、重心動揺計(アニマ社製G-6100)を用い、静止立位30秒間における総軌跡長と外周面積を測定した。また、膝関節周囲筋筋力の簡便な指標として、ハンドヘルドダイナモメーター(日本MEDIX社製PowerTrack_II_)を用いて膝関節膝窩部に抵抗を加え、膝関節伸展位で、大腿四頭筋セッティングの最大随意等尺性収縮を5秒間2回測定した。統計処理ではt検定とピアソンの相関係数を用い、有意水準を5%未満とした。
【説明と同意】
被検者は手術前日に入院し、検者より評価、研究内容を説明し、同意を得て測定を行った。術後3週の退院日前にも同様に説明し、同意を得て測定を行った。
【結果】
術前後の比較において、平均10m歩行時間は術前16.4±7.3秒から術後14.0±4.3秒に改善した。膝関節の関節可動域では、屈曲角は術前118.9±11.4°から術後111.8±11.3°に減少したが、伸展角は術前-6.4±6.9°から術後-3.2±4.5°となり、有意に改善した。平均膝関節周囲筋筋力は術前68.6±34.3Nから術後70.6±31.4Nで改善した。また健側比においても術前77.0±0.3%から術後90.0±0.4%で改善した。二点識別覚では踵部、小指球部、母指球部すべて術前より術後の方が平均最小距離は小さくなり、踵部においては有意に小さな値となった。足趾把持筋力では電子握力計の測定最小値が5kgであったため、術前は9名、術後は11名が5kg未満の値で測定不能であった。術前後に計測可能であった3名の平均は術前7.2±0.2kgから術後7.0±1.8kgに減少した。重心動揺は術前より術後の方が総軌跡長は長く、外周面積は小さくなったが有意差は認めなかった。また各相関については、術後10m歩行時間と筋力には相関を認めたが、重心動揺と筋力や10m歩行時間では、相関を認めなかった。
【考察】
歩行速度や関節可動域は、先行研究と同様にTKA術前後における10m歩行時間と筋力には相関を認め、各々の平均値は改善を認めた。これはTKAによる疼痛軽減、アライメント改善、理学療法介入などの治療効果と考えられた。足趾把持筋力においては、健常人を対象に行った先行研究では足趾把持筋力と重心動揺との相関関係が認められている。検者が変形性股関節症患者に行った同様の研究においても足趾把持筋力と総軌跡長で相関を認めていた。しかし、今回膝OA患者に行った結果においては、足趾把持筋力が測定できなかったものが、術前9名、術後11名を数え、足趾把持筋力の十分な結果を得ることができなかった。これは年齢層が高齢であったこと、測定機器である電子握力計の閾値の問題などがあげられた。また、先行研究では足底感覚の低下は重心動揺を増大させる報告が散見されるが、今回、二点識別覚では平均最小距離は術後小さくなったが、重心動揺では総軌跡長は長く、外周面積は小さくなった。これは、重心動揺が足趾把持筋力や足底感覚を含め、視覚や中枢神経系の関与など様々な因子の影響をうけていることが要因だと考えられた。
【まとめ】
重心動揺、二点識別覚、足趾把持筋力の研究は、様々行われている。今回、我々はTKA術前後における重心動揺と二点識別覚、足趾把持筋力のデータを得ることができた。今後は、さらに症例を増やし、基礎データとして検討することや重心動揺、足趾把持筋力などの評価・治療効果判定に臨床応用していきたいと考える。