東海北陸理学療法学術大会誌
第27回東海北陸理学療法学術大会
セッションID: P-003
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人工膝関節置換術における創部周囲経皮酸素分圧の変化
*伊藤 直之大谷 浩樹久保 憂弥山崎 孝堀 秀昭尾島 朋宏
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抄録
【目的】人工膝関節置換術(以下,TKA)後の重篤な合併症の一つに感染が挙げられ,その背景に創部の状態が関係していることが少なくない. そのため,創部治癒は術後治療の重要なポイントとなり,術後の運動療法において創部の治癒過程も視野に入れアプローチを行う必要がある.創部治癒を促進する因子に膝前面の血流の影響が大きいとされており,TKAにおける皮膚切開並びに皮下組織の剥離に伴う侵襲や術後関節可動域(以下,ROM)運動における屈曲角度の増大が血流低下を引き起こすと言われている.近年,微小循環の客観的評価に経皮酸素分圧測定が用いられている.経皮酸素分圧測定は,皮下組織の加温による毛細血管の拡張により動脈血酸素分圧と皮膚の微小循環の酸素分圧との相関性を利用し,皮膚表面より測定する方法である. 今回, TKA前後における創部周囲の経皮酸素分圧の変化を捉えることを目的とした. 【方法】対象はTKAを施行した7例7膝(平均年齢74.6±4.0歳)とした. 対象者には主治医同伴の下,研究の趣旨を説明後,同意を得た上で測定を実施した.皮膚切開は全例膝蓋骨下縁レベルでの横皮切であった.対象者の術後運動療法は全例術翌日よりROM運動と筋力増強運動を開始し,術後2日目より歩行練習を開始した.方法はラジオメーター社製経皮酸素分圧測定装置TCM400を使用し,術前,術後2日,術後4日,術後7日での伸展位と70度屈曲位(以下,屈曲位)にて測定した.測定部位は,創部周囲とし膝蓋骨下縁から近位,遠位それぞれ5_cm_の部位で,近位外側・内側,遠位外側・内側の4ヵ所とした.比較検討項目は各測定部位の経時的変化及び各測定時期における伸展位での測定部位間と各測定部位での測定肢位間での比較とし,統計処理は三元配置分散分析及び多重比較(Tukey法)を使用し有意水準は5%未満とした. 【結果】各測定部位の経時的変化に有意差が認められ, 各測定時期における測定部位間と各測定部位での測定肢位間には有意差は認められなかった.経皮酸素分圧の経時的変化を術前,術後2日,術後4日,術後7日の順に示す.近位外側は伸展位47.6 mmHg→28.4→29.1→44.0,屈曲位42.4 mmHg→26.9→22.2→38.9であり,術前と術後2日,術前と術後4日,術後4日と術後7日間に有意な低下が認められた(p<0.05).近位内側は伸展位53.3 mmHg→40.8→36.1→34.8,屈曲位46.4 mmHg→37.3→28.6→29.4であり,術前と術後4日,術前と術後7日間に有意な低下が認められた(p<0.05).遠位外側は伸展位49.9 mmHg→33.9→25.9→39.8,屈曲位42.7 mmHg→33.1→23.1→36.9であり, 術前と術後4日間に有意な低下が認められた(p<0.05).遠位内側は伸展位58.4 mmHg→41.9→35.6→48.4,屈曲位60.8 mmHg→45.7→35.5→46.2であり, 術前と術後4日間に有意な低下が認められた(p<0.05). 【考察】TKA後,創部周囲の経皮酸素分圧は術後4日目まで有意な低下が認められた. その要因として,皮膚切開や皮下剥離に伴う皮膚への微小動脈網の損傷による影響が考えられる.創傷治癒過程において術後4~5日後より増殖期を迎え,肉芽組織形成と伴に血管新生が行われるとされている.そのため,術後4日目までは経皮酸素分圧が低下し,その後血管新生による血流の改善が生じると考えられる.次に,術後各測定時期において測定部位間に有意差は認められなかった.黒坂らは,ストレート皮切において術後創部外側部でより経皮酸素分圧の低下が起こると報告している.膝前面の皮膚は内側からの血行により栄養されるとされていることから,今回は皮切による違いが関与していると考えられる.また伸展位と屈曲70度での比較においても有意差は認められなかった.Johnsonは,TKA後90度屈曲では伸展位に比較し急激に経皮酸素分圧が低下したと報告していることから,屈曲運動範囲が70度であれば伸展位時の経皮酸素分圧を維持した状態でROM運動が施行出来ることが示唆される.以上より,経皮酸素分圧の経時的変化や屈曲角度に伴う変化を念頭に置き運動療法を進めることはTKA後において重要な一因子になり得ると考えられる. 【まとめ】TKA後,創部周囲の経皮酸素分圧は術後4日までは手術侵襲により低下を招くため注意が必要であることが示唆された.その間のROM運動は,屈曲70度までであれば伸展位での経皮酸素分圧を維持した状態で実施可能であり,創部治癒を妨げることなく理学療法を展開できると考えた.
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© 2011 東海北陸理学療法学術大会
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