東海北陸理学療法学術大会誌
第27回東海北陸理学療法学術大会
セッションID: O-07
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外傷性の対麻痺を伴う2型糖尿病患者の単一症例研究
-上肢による有酸素運動は血糖コントロールに影響を与えるか?-
*水谷 真康高橋 猛萩原 早保青木 正典若山 浩子出口 晃中 徹
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抄録
【目的】  2型糖尿病患者(以下DM患者)の血糖コントロールを目的とした運動療法は、エルゴメーター(以下EM)や歩行など下肢の有酸素運動が一般的である。下肢に運動機能障害を持つDM患者の場合には上肢での有酸素運動が考えられるが報告は少ない。本研究は上肢の有酸素運動が血糖コントロールへ及ぼす影響を明確にすることを目的とする。
【方法】
1)研究方式:ABAデザインの運動介入を含む単一症例研究。
2)対象症例:外傷性対麻痺を既往に持つ2型糖尿病患者、62歳男性・身長180cm・体重90.2kg・DM罹患期間43.2ヶ月間・過去1年間の平均HbA1c7.1±0.6%である。交通事故による胸髄損傷にて両下肢不全麻痺で歩行不能状態、改訂フランケル分類C1、ADLは車椅子にて自立レベルである。
3)期間設定:7月~12月で介入前非運動期間8週間、運動期間8週間、介入後非運動期間8週間と設定した。
4)測定項目:血糖コントロール指標のHbA1cは各三期の前後および中間点の計7点、運動耐用能指標として上肢でのRamp負荷運動負荷試験にて算出したAnaerobic Threshold(以下AT)の酸素摂取量(以下AT-V(dot)O2)・心拍数(以下AT-HR)・仕事量(以下AT-Load)、体格指標として体重・BMIをいずれも各三期の前後計4点、DM治療への主観的意識指標としてProblem Areas In Diabetes Survey(以下PAID)による質問紙調査を介入期間の前後2点にて測定を行った。また、運動能力指標としてEMによる消費熱量を介入初回・最終の2点にて測定した。
4)測定機器:EMは三菱電機社strengthergo240、呼気ガス分析器はCOSMED社K4B2を使用した。
5)介入方法:AT-HRの90%にて心肺定常負荷を用いた有酸素運動をEMにて週3日(30分/日)の頻度で8週間、計24回の運動を行った。
6)説明と同意:倫理委員会の承認を得た上で、説明後に文書による同意を得た。
【結果】  血糖コントロール指標HbA1c(%)は介入8週前6.9、4週前7.0、介入開始時7.0、4週後5.8、介入終了時5.8、介入終了4週後5.7、8週後6.3であった。運動耐用能指標・体格指標は開始8週前、開始時、終了時、終了8週後の順でAT-V(dot)O2(ml/min/kg)12.7 12.5 14.3 13.6 AT-HR(bpm)106 109 112 111 AT-Load(Watt)21.0 18.0 33.0 30.0 体重(kg)90.2 90.0 85.8 88.9 BMI27.8 27.8 26.5 27.4であった。消費熱量(Kcal)は初回29.6 最終45.9であった。
PAID(score)は開始時35.0 終了時28.75であり「糖尿病の運動療法について具体的目標がない」「糖尿病の治療が嫌になる」「糖尿病に打ちのめされたように感じる」の3項目が開始時より低値を示した。
【考察】 血糖コントロール指標のHbA1cは過去1年間の平均が7.1%、介入前期間が7.0%と高値であり長期間血糖コントロールが不良であったが、介入期間で5.8まで低下した。しかし介入後非運動期間では6.3まで上昇した。これは、上肢による有酸素運動が糖代謝を促進させることが可能であり血糖コントロールにおいて有効であったことを示している。日本糖尿病診療ガイドライン2004による血糖コントロール管理指標を本症例で見てみると、介入前は「不可」、介入により「優」となり細小血管障害など合併症の予防にも重要な役割を果たす血糖値のコントロールが行えたことは症例にとって有用な結果であった。  運動耐用能指標であるAT-V(dot)O2、AT-Load、体格指標である体重・BMIは改善し、介入後非運動期間で若干の悪化を認めたがAT-HRは変化がなかった。また、運動能力指標である初回・最終消費熱量は増加を認めた。これらは上肢での運動が心肺機能および全身持久力の向上、体重軽減に有効であったことを示している。押田らは、BMIとインスリン感受性は負の相関、全身持久力指標とインスリン感受性は正の相関があると報告しており、今回の結果でBMIが低下し運動耐用能指標が向上していることからインスリン感受性が改善したことも推察できる。
 PAID(score)の改善は、上肢の運動によっても効果が感じられ、目標意識の明確化につながったためであると考えられた。
 血糖コントロール、運動耐用能指標や体格指標が介入で改善し非運動期間で悪化する傾向を示す結果となったことは、本介入が血糖コントロール等上記の指標改善に有益であることが示された一方、運動療法を8週間以上継続する必要性も示唆している。
【まとめ】
■下肢機能制限をもつDM患者に対し上肢による有酸素運動を実施した。結果、血糖コントロール及び運動耐用能・体格へ有益な効果があることが示唆され、下肢に機能障害を持つ患者に対し上肢での有酸素運動の有用性を示すことができた。
■下肢機能障害により血糖コントロールを目的とした運動療法の導入が困難であった患者に対し、上肢による運動療法は、感情負担の軽減、目標意識の明確化等、精神面での改善を促すことがわかった。
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© 2011 東海北陸理学療法学術大会
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