東海北陸理学療法学術大会誌
第27回東海北陸理学療法学術大会
セッションID: P-012
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モーニングリハビリ介入により退院後の生活リズムの改善を図った症例
*松田 剛治板本 直明高田 真弓大谷 尚史
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抄録

【はじめに】今回,自宅内での転倒を繰り返し,右コーレス骨折を発症した症例を担当した.本症例は,3年前に慢性閉塞性肺疾患(以下,COPD),脳梗塞を発症したが介護保険サービスを使用しながら独居での在宅生活を続けていた.しかし生活リズムの乱れや,栄養状態低下から,息切れ,めまい,ふらつきが著明となり転倒に至った.その為,退院後の生活リズム改善に着目した取り組みを行ったので報告する.
【症例紹介】68歳男性.身長:160cm.体重:41kg.BMI:16.0やせ型.診断名:右コーレス骨折.既往歴:COPD,脳梗塞(共に2008年発症).介護認定:要介護度1.アパート1Fにて独居生活.
【入院前の生活】布団を使用し,トイレは自室から約5mの共同の和式トイレ使用.家事は週2回の訪問介護,入浴は週2回の通所介護を利用していた.食事摂取量,摂取時間にはムラがあったが,受傷1ヶ月ほど前からは,特に朝食を摂らず,そのまま臥床している事が多くなった.それと同時に通所介護利用時などに息切れが著明になった.
【初期評価】機能的自立度評価(以下,FIM):59/126点.常時経鼻酸素吸入2ℓで,労作時息切れ著明にて,臥床傾向であった.
【入院時血液検査データ】赤血球:5480/uℓ.ヘモグロビン:7.7g/dℓ.鉄分:17ug/dℓ.
【モーニングリハビリ導入の目的】大熊らによれば,栄養状態と呼吸機能とは密接に関わっているといわれている.COPD患者は呼吸補助筋群の活動亢進による呼吸筋酸素消費量増大し,食事摂取量低下でエネルギー源としての筋タンパクの使用から呼吸筋力,換気効率が低下し,安静時エネルギー消費量の増大といった悪循環に陥る.本症例は3年前のCOPD発症時より4kgの体重減少があり,呼吸補助筋による呼吸様式となっており,食事摂取量低下は著明であった.また血中の赤血球,ヘモグロビン,鉄分の低下は著明にて,金丸らによれば,これらの低下は酸素運搬不十分となり、貧血状態をもたらし,足りなくなった酸素を補うため,血液の循環が速くなり,動悸,息切れ,しいては朝起床時のだるさ,めまい引き起こすといわれている.さらに中村らによれば,貧血状態となった場合には,鉄剤の投薬と共に,予防や改善には3度の食事をできるだけ毎回一定の時間帯にとるよう習慣づけ,生活のリズムを整える事が重要であるといわれている.本症例も朝食を摂らないという生活リズムの乱れから,栄養状態,貧血,臥床傾向となり,息切れ,めまい,転倒に至ったと考え,問題点を朝食の不摂取による生活リズムの乱れとし,朝食の全量摂取と習慣化と生活リズムの改善を目的としてモーニングリハビリを開始した.
【経過】実施内容としてはまず車椅子で離床し,食堂での朝食摂取から開始した.食事摂取量の向上と共に移動方法を歩行への変更,携帯酸素ボンベの操作,トイレ,整容動作と追加をして一連の動作の習慣化を図った.また日中のリハビリにて,換気効率の良い呼吸パターンの獲得の為,腹式呼吸法を実施し,離床の促し,各動作練習・指導,歩行量の増加を行い,臥床傾向の生活の改善を行った.
【結果】モーニングリハビリの介入により,3食ともに7割程度の食事量もすぐに全量摂取となり,退院近くにはベッド上に端座位でリハビリスタッフを待つなどと,臥床傾向であった生活も改善され,FIMも90/126点と向上し,日中の活動量も増加した.さらに在宅サービス担当者との話し合いにて,訪問看護介入と訪問介護増加となり,在宅生活での医学的管理と毎朝の行動チェック,在宅酸素の酸素濃縮装置設定を行えるようになった.またベッド使用と困難を極めると思われた共同トイレへのかぶせ式便座の設置も,アパート管理者の理解を得て可能となり,在宅復帰となった.
【まとめ】本症例のように,独居生活での良好な生活リズムの維持は困難を極めることが多い.本症例では,朝食を摂らないという生活リズムの乱れに着目し,転倒に至る問題点とし,朝食摂取と習慣化を目標としてモーニングリハビリを導入した.結果,朝食全量摂取と習慣化が獲得された.このことにより臥床傾向も改善され,日中の活動量も向上し在宅復帰となった.問題点を機能面のみならず,生活面での問題点の抽出と生活場面に密着したアプローチを重点的に行った結果,独居生活の継続となったと考える.在宅生活を継続する為には,入院初期から在宅復帰後の生活を見据えたアプローチが重要となり,理学療法士も身体機能面だけではなく,モーニングリハビリといった生活場面に関わっていくリハビリ提供が必要となると思われる.

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© 2011 東海北陸理学療法学術大会
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