東海北陸理学療法学術大会誌
第27回東海北陸理学療法学術大会
セッションID: P-013
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温泉プールを利用した集団水中運動の取り組みとその効果について
*荒尾 智史清水 義昭人見 晶子高橋 一郎中出 みち代
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抄録

【はじめに】 当センターには、昭和16年に海軍病院として創設以来の温泉を利用した屋内プールがあり、理学療法の一環として水中運動療法を行っている。平成20年7月から新規事業として、一般住民や温泉宿泊客などにも対象を拡げて、自由診療で集団水中運動を開始した。参加者には、1ヵ月毎に体力測定を行い、その測定値をフィードバックし個別目標を設定して、運動継続への意欲向上に努めている。そこで今回、3ヵ月間継続して行った参加者の測定結果について若干の考察を含め以下に報告する。
【方法】 対象者は、3ヵ月間継続して集団水中運動に参加した者17名(内訳:女性15名,男性2名)、平均年齢は、67.0±6.7歳である。平均参加回数は4.4±1.9回/月、有疾患は運動器疾患7割、脳血管疾患1割、内科疾患2割である。プール環境は、源泉100%の温泉で泉質はカルシウム・ナトリウム硫酸塩泉、水温:35~36℃、室内温度:28℃、水深:1.0~1.2m、大きさ:10m×5mである。プログラムは、温泉プールにてストレッチ、体操、水中歩行、ボール・ビート板・ウレタン棒などの器具を使った運動、リラクゼーション、クールダウンを1時間行った。
 方法は、初回、1ヵ月後、2ヵ月後、3ヵ月後に下肢筋力、握力、開眼片脚立位、10m最大歩行速度、Timed up & go、ファンクショナル・リーチ、長座体前屈の7項目を運動前に測定した。また各項目について、初回評価時と比較する為にT検定を行い、比較検討を行った。
【結果】結果は、7項目ほとんど全ての項目で初回と比較し改善傾向がみられた。特に、開眼片脚立位では初回から3ヵ月後に、10m最大歩行速度、Timed up & goでは2ヵ月後以降に有意な改善が見られた。
【考察】 水中運動とは、運動機能の改善を目的に抵抗、水圧、浮力、水温という水の持つ物理的特性を利用して行う全身的な運動療法である。一般的な水中運動の効果として、粘性抵抗などを活用した筋力・筋持久力向上、渦流を活用した協調性改善、静水圧を活用した体内循環促進により、運動能力の向上が得られることが挙げられる。また浮力が働くことで、関節にかかる荷重が免荷され、疼痛が軽減することも利点の一つである。
 今回の調査で、開眼片脚立位に有意な改善が見られた。水中では浮力により不安定にされた足底、足趾からの表在、深部感覚が得られにくくなるため、視覚や傾きを感じる前庭系の感覚などを最大限に活用し、姿勢制御を行う必要がある。これらが静的バランス能力の向上につながり、効果が見られたのではないかと考える。また、10m最大歩行速度、Timed up & goにおいても有意な改善が見られた。歩行において必要な条件はいくつか挙げられるが、体幹と四肢を状況に応じて安定させることや、移動のために体勢を整える姿勢のコントロール、さらに歩行開始、歩行中、停止など常にバランスを保てる動的バランス能力が必要である。水中では免荷状態となり、持続して働く姿勢維持筋はあまり活動を要求されないことで、これらの筋がリラックスでき、さらに弱い筋力でも姿勢を変換できる可能性が高まっており、スタビリティの強化が行えたと考えられる。さらに参加者が運動することで起こる水流が外乱刺激となり、それに対し支持基底面に身体重心をコントロールすることで身体軸と重心位置が認知され、姿勢コントロールの再学習が出来たのではないかと考える。また転倒の危険がないことで恐怖心が減り、粘性が運動の介助になることで、大きな重心移動を伴ったダイナミックな運動が可能となり、動的バランス能力の向上につながったと思われる。これらに加えて、先述した安定筋の強化や姿勢筋のコントロールの向上が得られたことにより、効果が見られたのではないかと考える。
 さらに当センターでは、温泉プールの温熱及び保温によるリラクゼーションや、浮力による疼痛軽減が得られやすい運動器疾患を有する参加者が多いことも、より運動効果が上がった要因の一つではないかと考えられる。
 改善する時期に個人差があるものの、水中運動開始から2ヵ月から3ヵ月後に特に運動効果が見られることから、継続的に行うことが重要であると考えられる。今後、効果的な運動を実施するためには、マンネリ化しない運動プログラム作成が必要であると考えられる。
 【参考文献】
1) 冨田昌夫:全身水中運動.理学療法技術ガイド 第2版.320-326.文光堂,2001
2) 佐藤陽介:水中運動療法の効果について 東海北陸学術大会誌21:71,2005

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© 2011 東海北陸理学療法学術大会
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