東海北陸理学療法学術大会誌
第27回東海北陸理学療法学術大会
セッションID: P-014
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家族に対するリハビリテーションマネージメントによりADL改善と介護負担軽減がみられた一症例
*豊岡 功松井 一人吉本 與史一笠羽 竜太郎岡田 知恵
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抄録

【目的】病院を退院後に在宅にて機能低下を認めることはよく経験する。理学療法士が訪問リハビリテーション(訪問リハビリ)を実施し在宅生活を支えるにあたり、機能訓練指導等の本人へのアプローチのみでは在宅生活を支える事は困難である。包括的な支援を行うにあたっては家族に対してリハビリテーションの視点からマネージメントを行う事が重要である。今回在宅における大腿骨転子部骨折の症例に対し、リハビリテーションマネージメント(リハマネジメント)に主点を置いた訪問リハビリの関わりを実施し、良好な在宅支援とADL能力改善が見られたのでここに報告する。 【症例紹介】症例は80歳男性。平成22年9月に自宅の庭先で転倒。右大腿骨転子部骨折を受傷。受傷前はT杖にて自立歩行されていた。翌日に医療機関にて手術施行、リハビリでは歩行器にて軽介助レベルにて実施可能であった。11月退院するも歩行困難にて車椅子移動に変更されている。家族や外部との交流はほとんどなく、意欲の低下と介護量の増大が見られた。屋内移動の安定、廃用症候群の予防を目標に訪問リハビリ開始となる。主介護者は症例の妻で70歳代女性。 身体状況として両側変形性膝関節あるも疼痛自制範囲内であり、ADLに問題なく仕事もされている。仕出し屋業を家族で営んでおり、症例との関わり方について悩んでいた。介護負担を感じる事として「介護に時間が割けない」「どうのように接するといいか分からない」とのことであった。利用者の臥床時間が長く低活動であることについては「年だから仕方がない」「元気になるまでは時間が掛かるのだろう」との認識であった。生活環境の情報として住居は市街地にあり建築様式は古い日本家屋である。調理場とお座敷が家屋内にあるため、住居スペースは狭く段差が多い。利用者の居室は調理場や家族の食堂から遠く、人の出入りが少ない。 【方法】Zarit介護負担尺度と機能的自立度評価表(FIM)デジタル下肢筋力計(株式会社モルテン社製)を用いリハマネジネントによる介入の効果を判定する。 【結果】FIM53点から72点に改善、膝伸展筋力18.5kgから22.4kgに改善が見られ、Zarit介護負担尺度32点から26点の軽減が確認された。 【考察】Zarit介護負担尺度において家族の介護負担を評価し、FIMと下肢筋力にて利用者のADLと身体機能を評価した。両者を評価することで生活内容が確認しやすくなり、アプローチや指導においても有効に機能した。またそれらの評価結果より、利用者のみならず家族に対してのリハマネジメントが有効であり、リハビリテーションの視点から日常生活上の生活行為に働きかけることが重要であると確認された。FIMにおけるADL機能評価において改善が見られ、下肢筋力の改善も併せて確認された。FIMにおける改善項目は更衣・下半身や移乗動作であり、立位保持をとる事が出来る時間が延長したことにより下着着脱の介護が行われやすくなっている。ベッドと車椅子間の移乗においては、ほとんど自分自身にて行われるようになるなど改善を示し、結果として寝室以外で過ごす時間が増えている。日々の生活動作と活動を引き出す介護を連結させ、利用者を不用意に低活動にしないことが重要であった。「出来るADL」が「しているADL」となって生活を送っているかを評価し、「しているADL」となるように必要な量の介護を設定するのが理学療法士としての重要な役割である。また、出来ない部分を介助しながら残存機能を充分に使用する事が予後の身体能力推移に大きく影響すると考えられる。総務省の社会生活基本調査(基本調査)においては実際の生活行為を1次活動(生理的活動:睡眠とセルフケア)2次活動(役割活動:家事や仕事)3次活動(余暇活動:趣味や休息)の3つに分類している。野尻らは1)健常者と脳卒中高齢者の在宅生活を基本調査をもとに比較し、1次活動の割合は一生を通じて大きな変化は無いものの、2次活動と3次活動からなるいわゆる「その人らしさ」の領域が減少していると報告している。介護指導を行う視点として、セルフケアにとどまることなく2次活動と3次活動の領域を広げるために介護をもって生活構造を変化させ、その先にある役割活動や趣味に結び付けて行く事が重要と考えられる。 【まとめ】利用者だけでなく、家族も含めたリハビリテーションマネージメントを行う事が重要である。また、家族に対して適切な生活指導や介助指導を行う事で、利用者の機能的自立度や筋力等の身体機能を改善する事が可能であり、結果として介護負担も軽減が見られた。【参考文献】1) 野尻晋一:通所による要介護高齢者との長期的関わりと理学療法士の視点.理学療法ジャーナル第43巻11号:967‐973,2009

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© 2011 東海北陸理学療法学術大会
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