東海北陸理学療法学術大会誌
第27回東海北陸理学療法学術大会
セッションID: P-028
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鎖骨挙上不足と肩甲骨上方回旋不足により肩関節外転90°時に棘上筋腱と肩峰下滑液包が烏口肩峰アーチに挟み込まれ疼痛が出現した症例
*上杉 光臣森川 美紀磯田 真理大津 顕司椙本 剛史西田 美紗子宮本 啓治有川 功
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抄録

【目的】肩甲骨上方回旋は肩関節外転90°で鎖骨挙上および鎖骨後退,鎖骨後方回旋により生じるとされているが臨床的に重視されてこなかった.本症例は治療前の肩甲帯外転機能X-p検査から肩関節外転45°,90°,最終域で鎖骨の挙上が不足し, 肩関節外転90°で肩甲骨の上方回旋が不足していた.治療後の肩甲帯外転機能X-p検査では鎖骨の挙上,肩甲骨の上方回旋が改善していた.鎖骨の挙上,肩甲骨の上方回旋が改善したことによって関節窩,烏口肩峰アーチが上方へ向き,上腕骨頭の滑り,転がり,外旋が起こりやすくなった.本症例を通じて肩甲骨の上方回旋を十分に引き出すためには鎖骨の挙上が不可欠であることを学んだので以下に報告する.
【方法】有痛性肩関節外転制動症の一症例に対し段階的診療を行った.評価対象動作は立位で前腕中間位の肩関節外転動作とした.初診時の治療前と3診時の治療後に肩甲帯外転機能X-p検査を行った.肩甲帯外転機能X-p検査は上腕骨,鎖骨,肩甲骨,脊柱が観察できるように撮影した.撮影肢位は立位で前腕中間位とした.肩関節外転0°,45°,90°,最終域で撮影した.X-p検査の撮影は医師の指示のもと放射線技師が行った.エコー機器はGE Healthcare LOGIQ P6を使用した.対象者にはヘルシンキ宣言に基づき本研究の趣旨を説明し,同意を得た.
【結果】患者情報:30代男性.現病歴:2週間前から突然左肩が痛くなった.それ以前から左肩の後外側に時々痛みがあった.主訴:左肩を挙上したり,挙上位から下降する時に痛い.初診時所見:左肩関節外転90°時に疼痛が出現した.最終域まで外転可能であった.初診時の評価と治療では筋肉機能不全の評価と治療と関節機能不全の評価と治療を行った.左肩関節外転90°で疼痛が出現した.触知圧迫テストを行った.左上腕二頭筋・腕頭骨筋・棘下筋・僧帽筋上部により左肩関節外転90°での疼痛が消失した.左上腕三頭筋・広背筋・僧帽筋下部では疼痛に変化はなかった.左上腕二頭筋・腕橈骨筋・棘下筋・僧帽筋上部に伸縮性テープを貼付した.左肩関節外転100°で疼痛が出現した.肩甲骨上方回旋テープと下方回旋テープを貼付し,疼痛出現までの角度,外転動作時の円滑さ,本症例の主観的な外転しやすさを評価した.改善が見られた方を採用した.鎖骨肩峰肩甲棘テープ,鎖骨後方回旋テープ,鎖骨後退後方回旋テープに関しても同様に評価し,改善が見られた方を採用した.肩甲骨上方回旋テープと鎖骨後方回旋テープを貼付した.左肩関節外転110°で疼痛が出現した.2,3診時は疼痛なく左肩関節外転最終域まで動作可能だった.初診日より5日目に運動器超音波検査を行った.棘上筋の不全断裂が観察された.肩関節外転動作時に上腕骨頭が肩峰をスムーズにくぐりぬける様子が観察された.初診時治療前と3診時治療後の肩甲帯外転機能X-p検査を比べて肩関節外転45°では鎖骨の挙上が増加し,上腕骨頭の外旋と尾側への滑りが改善した.肩関節外転90°では鎖骨の挙上が増加し,肩甲骨の上方回旋が増加した.また,上腕骨頭の外旋が改善した.肩関節外転最終域では鎖骨の挙上が増加し,鎖骨の後退,後方回旋が減少した.
【考察】肩関節外転90°では鎖骨はおよそ30°挙上し,それに伴い肩甲骨が上方回旋する.本症例は肩関節外転時の鎖骨の挙上が不足していたため肩関節外転90°で肩甲骨の上方回旋が不足していたと考えた.上腕二頭筋テープ,腕橈骨筋テープ,棘下筋テープにより肩関節外転45°,90°での上腕骨頭の外旋と尾側への滑りが改善した.僧帽筋上部線維テープ,肩甲骨上方回旋テープにより肩関節外転時45°,90°,最終域での鎖骨の挙上と肩関節外転90°時の肩甲骨の上方回旋が増加した.鎖骨の挙上,肩甲骨の上方回旋が改善したことによって関節窩,烏口肩峰アーチが上方へ向き,上腕骨頭の滑り,転がり,外旋が起こりやすくなった.
【まとめ】本症例を通じて肩甲骨の上方回旋を十分に引き出すためには鎖骨の挙上が不可欠であることを学んだ.

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© 2011 東海北陸理学療法学術大会
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