抄録
【目的】
知的障害者の全身持久力評価は競技力の向上や運動効果の評価に重要である。しかし、知的障害者においては、一般的な運動負荷試験において最大負荷が得られにくいことが考えられた。そこで本研究の目的は、知的障害を有する運動選手において、最大負荷を必要としない酸素摂取効率勾配(Oxygen Uptake Efficiency Slope:OUES)による全身持久力評価の有効性を明らかにすることである。
【方法】
対象は、日常的に水泳を行っている知的障害者水泳選手12名で、知的障害の程度は療育手帳B1,B2レベルとした。年齢は、17.1歳±0.5であった。心肺疾患を有する者、高度の肥満者は対象外とした。
方法は、自転車エルゴメーターによる運動負荷試験を実施した。運動負荷は、15w/minの漸増負荷とした。運動中止基準は、ペダリング速度が毎分60回転を維持できなくなった時点とした。運動中の呼気ガスをbreath-by-breath方式によって測定し、フクダ電子社製オキシコンアルファによって分析した。最大酸素摂取量は運動終末30秒間の平均値を用いた。換気閾値は、V-slope法によって決定した。OUESは、運動負荷中のVO2をVEの対数関数として近似し、このときのlog項の係数をOUESとした。各指標間の関係は、単回帰分析を用いて解析した。有意水準はp<0.05とした。
【結果】
最大酸素摂取量、換気閾値、OUESの関係は、最大酸素摂取量とOUESの相関係数が0.848(p<0.001)、換気閾値と最大酸素摂取量の相関係数が0.715(p<0.01)、OUESと換気閾値の相関係数が0.707(p<0.05)であった。
【考察】
最大酸素摂取量は、全身持久力を示す指標として重要であるが、最大負荷を必要とするため、測定への理解や運動への動機づけへの困難さが予想される知的障害者においては、最大酸素摂取量が正確に測定できない可能性が考えられた。このような最大酸素摂取量の欠点を補うためにこれまでにいくつかの指標が用いられてきた。特に換気閾値は、亜最大下で求められる好気的運動耐用能の指標として広く用いられ、最大酸素摂取量との相関が知られている。本研究の結果、換気閾値よりもOUESのほうが知的障害を有する水泳選手の最大酸素摂取量との高い相関関係を示したと考えられた。このことは、知的障害者スポーツ領域におけるOUESの応用の可能性が示唆された。
【まとめ】
知的障害を有する水泳選手に運動負荷試験を実施し、最大酸素摂取量、換気閾値、OUESの関係について検討した。測定の結果、換気閾値よりもOUESが最大酸素摂取量との高い相関を示した。このことは、知的障害者における全身持久力の指標としてOUESの有効性を示すものと考えられた。今後は、様々な競技スポーツ現場での応用が研究課題と考えられた。