抄録
【目的】 我々は、第21回石川県理学療法学術大会において骨盤中間位での下肢伸展挙上(Straight Leg Raising, 以下SLR)保持時の腹部筋の活動を超音波診断装置を用いて検討した。その結果から、骨盤の傾斜によりSLR保持時の腹部筋の活動が変化するのではないかと考えた。今回、超音波診断装置を用いた筋厚測定から、異なる骨盤の肢位におけるSLR保持時の腹部筋の活動を検討することとした。
【方法】 研究に対して同意を得られた男性11名(年齢29.1±3.7歳、身長172.8±8.1㎝, 体重62.1±8.5㎏)を対象とした。被験者の選択において、現在腰痛を有する者を除外した。測定機器は超音波診断装置(HI VISION Preirus、日立メディコ)を使用した。6-14MHzの可変式リニア型プローブを使用し、周波数は7.5MHzとした。対象筋は腹横筋、内腹斜筋、外腹斜筋とし、測定部位は左前腋窩線における肋骨辺縁と腸骨稜の中央部とした。その位置にマーキングを行い、プローブ位置を統一した。SLRは右下肢で行うこととし、30°の高さで保持することとした。SLRは検者が他動的に測定を行う高さまで挙上した後、被験者にその位置で保持させた。測定条件は骨盤中間位、骨盤前傾位、骨盤後傾位の3条件とし、各条件で安静時とSLR保持時の筋厚測定を2回行った。測定肢位は、安静背臥位を骨盤中間位とし、ストレッチポールハーフカット(LPN社)を腰仙椎部に挿入した肢位を骨盤前傾位、仙尾椎部に挿入した肢位を骨盤後傾位とした。静止画像の抽出および筋厚の測定は安静呼気位に統一した。統計学的分析として、各測定条件で安静時とSLR保持時の筋厚を対応のあるt検定を用いて比較した。有意水準は5%未満とした。
【結果】 すべての測定条件において、外腹斜筋のみ安静時と比較してSLR保持時に有意に筋厚が高値を示した。腹横筋と内腹斜筋には有意差は認められなかった。
【考察】 我々は、先行研究において安静時とSLR保持時の腹部筋の筋厚を比較したところSLR保持時に外腹斜筋のみ有意に高値を示した。異なる骨盤の肢位での検討を行った本研究においても、すべての測定条件においてSLR保持時に外腹斜筋のみ有意に高値を示した。このことから、SLR保持時に骨盤の前後傾の肢位に関係なく内腹斜筋や腹横筋の活動は少ないことが考えられ、SLR保持はローカル筋の活動を得るには適さないことが示唆された。運動課題としてSLR保持を用いる際に、腹部筋の中でもグローバル筋に分類される外腹斜筋が優位に働くことが考えられるため、ローカル筋の活動が不十分な症例に対して行う際には、腰部への過剰なストレスが加わる可能性があるため注意する必要があると考えられる。
【まとめ】 骨盤の前後傾の肢位に関係なく、どの肢位においても外腹斜筋の筋厚のみ安静時と比較してSLR保持時に有意に高値を示した。