抄録
【目的】 感覚機能の客観的な評価として体性感覚誘発電位(Somatosensory Evoked Potential;SEP)がある。SEPは中枢神経系への入力量や出力量に影響され、収縮速度や収縮強度が増加するとSEP振幅は低下するといわれている。しかしながら運動頻度の違いがSEPに及ぼす影響について検討した報告は少ない。そこで本研究では運動頻度の異なる手指反復運動が同側上肢の感覚機能に及ぼす影響についてSEPを用いて検討したので報告する。
【方法】 対象は整形外科学的および神経学的に異常を認めない健常成人10名(平均年齢24.2±3.0歳)とした。対象者には本研究の目的と方法、個人情報に関する取り扱いなどについて書面および口頭で説明し理解を得た後、同意書に署名を得た。なお、本研究は関西医療大学倫理委員会の承認のもとで実施した。検査姿勢は背臥位とし、SEPはViking4(Nicolet)を使用して安静時、右手指の運動課題遂行時に導出した。運動課題は右示指MP関節の屈曲・伸展の反復運動を0.5Hz、1Hz、3Hzの頻度で実施した。各運動課題はランダムに実施した。SEP導出の刺激条件は、頻度を3.3Hz、持続時間を0.2ms、強度を感覚閾値の2~3倍とし、右手関節部の正中神経を刺激した。加算回数は512回とした。記録条件として探査電極を国際10-20法に基づく頭皮上の位置で刺激側と対側の上肢体性感覚野(C3’)、および第5頸椎棘突起上皮膚表面(SC5)、刺激側と同側の鎖骨上窩(Erb点)に配置し、基準電極を刺激側と対側の鎖骨上窩(Erb点)、前額部(Fpz)に配置した。C3’-Fpz間からはN20とP23、SC5-Fpz間からはN13、同側Erb点-対側Erb点間からはN9の振幅および潜時を測定した。安静時と各課題遂行時の振幅と潜時の統計学的比較にはDunnett検定を用いた。なお、有意水準は危険率5%未満とした。
【結果】 N9、N13振幅は安静時と比較して各課題において有意差を認めなかった。N20、P23振幅は安静時と比較して3Hzにおいて有意に減弱した(p<0.01)。潜時は安静時と比較して各課題において有意差を認めなかった。
【考察】 上肢刺激による誘発電位の発生源として、N9は腕神経叢、N13は楔状束核、N20は第一次体性感覚野、P23は第一次体性感覚野より上位レベルの由来と考えられている。本結果より3Hzの頻度での手指反復運動では第一次体性感覚野と第一次体性感覚野より上位レベルの興奮性を低下させることが示唆された。SEP振幅の低下にはgating現象が関与するといわれており、運動頻度の増加にともない末梢からの入力量と皮質からの出力量が増大したことで、感覚野で上肢刺激に対して不応期が生じたか、運動野が感覚野を抑制する可能性が推察された。
【まとめ】 SEPを用いて運動頻度の異なる手指反復運動が同側上肢の感覚機能に及ぼす影響を検討した。3Hzの頻度での手指反復運動では第一次体性感覚野と第一次体性感覚野より上位レベルに抑制効果を及ぼす可能性が考えられた。