抄録
【目的】 姿勢制御を評価する方法として重心動揺計を用いた足圧中心の測定がある。以前、私たちは「頸部からの揺すり」(以下、揺すり)、「腹臥位・パピーポジションでの運動」(以下、パピー)の治療効果について重心動揺計を用いた姿勢制御評価を行い、体幹深層筋の活性化により巧緻な姿勢制御が可能になることを明らかにした。今回これらのデータを用い、バランスのとり方と支持面の関係について捉えやすいクラインフォーゲルバッハの運動学と関連づけ、姿勢制御変化の分類を試みたので報告する。
【方法】 八木、野口の実験(藤田保健衛生大学倫理審査委員会(09-015, 10-010)の承認を受け、紙面と口頭で説明をした後に同意を得て実施)に参加した健常成人71名(平均年齢21.0±1.9歳)のデータを使用した。その内訳は、揺すり群29名、パピー群14名、腹筋運動と背筋運動を行なった筋力トレーニング群(以下、筋トレ)14名、5分間背臥位でいる背臥位群14名とした。計測機器は、重心動揺計を用いて、サンプリング周波数20Hzにて15秒間の静止立位における足圧中心変動を記録した。測定項目は、軌跡長(㎜)、面積(㎜2)、単位面積軌跡長(以下、L/A,/㎜)とした。それぞれの値の治療前後での変化率を算出し、変化の増減ごとに分類した。
【結果】 軌跡長、面積、L/Aの変化は以下の6パターンに分類され、群ごとの内訳(名)を示す。
(1)軌跡長増加、面積増加、L/A増加:揺すり群3、パピー群2、筋トレ群0、背臥位群0
(2)軌跡長増加、面積増加、L/A減少:揺すり群4、パピー群1、筋トレ群9、背臥位群3
(3)軌跡長減少、面積増加、L/A減少:揺すり群0、パピー群2、筋トレ群1、背臥位群2
(4)軌跡長減少、面積減少、L/A減少:揺すり群2、パピー群0、筋トレ群3、背臥位群1
(5)軌跡長減少、面積減少、L/A増加:揺すり群14、パピー群6、筋トレ群1、背臥位群7
(6)軌跡長増加、面積減少、L/A増加:揺すり群6、パピー群3、筋トレ群0、背臥位群1
【考察】 姿勢制御戦略として、支点に対して反対側の重りで釣り合いをとり支点を動かさずにバランスをとるカウンターウェイト(以下、CW)を活性化する戦略と、運動の拡がりに拮抗する筋活動で支点を変化させながらバランスをとるカウンターアクティビティ(以下、CA)による戦略があり、これらを協調させてバランスを保持するとされる。またL/Aは、深部感覚系の微細な姿勢制御を示すものと報告されている。本結果より、(5)(6)は面積が減少しながらL/Aが増加し、持続的に微細な姿勢調節がなされているCAの姿勢戦略がより優位になったと考えられる。一方で、L/Aが減少した(3)(4)はCWを活性化した戦略が優位になったと考えた。軌跡長、面積共に増加した(1)(2)は、上記のいずれの戦略も取りきれず不安定性が増大したパターンと考える。揺すり群やパピー群は、(5)(6)のCA優位に変化したパターンに分布する対象が多い事が明らかになった。
【まとめ】 頸部からの揺すり、腹臥位・パピーポジションでの運動の治療効果を重心動揺計から得られる値を用いてクラインフォーゲルバッハの運動学に基づき姿勢制御の戦略を分類した。計測機器としては比較的安価で簡便な計測が可能である重心動揺計で治療効果の判定ができることは臨床上極めて価値の高いものと考える。