抄録
本研究は、主観的時間について、時間知覚の位置づけから実験的検討を加えたものである。時間知覚の規定には、刺激間間隔・時間誤差・先行する刺激系列といった要因が実験心理学的な知見から指摘されている。本研究は、それらの要因のうち先行する刺激系列に着目し、音の主観的時間を対象とする観点から、刺激系列の変域を一定にした上で、系列内の刺激の分布を偏向させることで、音の主観的時間の変化を測定した。実験の結果、2つの傾向が見出された。第1の傾向は、測定値は先行する刺激の持続時間の関数として知覚的対比として得られること、第2の傾向は、系列内の刺激の分布に応じて同一の刺激に対する測定値は変化することである。これらの傾向は先行する刺激や、それらの分布を起因とする繋留効果として見なされ、特定の刺激についての主観的時間は、その刺激に対して判断を下すときに共に呈示される他の刺激の時間的特性によって変化すると結論づけられる。また、観察者の内観報告からも、一連の結果を示唆する記述が得られたことから、時間知覚を検討する手法のひとつとして、観察者の記述が有用であることを指摘した。