学術の動向
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第三部:被災地との往還と専門知の検証/再審
認知されにくい災害被害を記憶にとどめる
──社会的モニタリングのエージェントは誰か
島薗 進
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2023 年 28 巻 3 号 p. 3_60-3_62

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抄録

 東日本大震災が引き起こした被害のなかでも、福島原発事故による被害は認知されにくい側面をことに多く含んでいる。被害がどのような範囲に及び、どれほどの程度のものかは、原発災害をめぐる数多くの裁判で争われてきている。対立する見方が併存する状況が続かざるをえないのだ。被害の不可視化の大きな要因の一つは、避難基準を高く定めたために「自己責任」で「自主的に」避難せざるをえない人々(区域外避難者)が数多く生じたことだ。区域外避難者の被害は認知されにくく、政府・自治体の支援は限定的になる。放射線量が比較的高い地域にそのまま留まった人々も、不安を語ることを抑圧されるなどのストレスを被った。公的には否認される甲状腺がんなどの健康被害も大きな争点となっている。公的には不可視化され、記憶されにくいこうした被害をどのように記憶していくかが大きな課題となっている。

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