本研究では,一般的な直膨式冷蔵庫と低温高湿度環境の維持が可能なブライン式冷蔵庫に野菜を数か月間貯蔵し,細胞観察を行うことで,長期保管中の温湿度環境が野菜の細胞構造に与える影響を検証した.その結果,ブライン式冷蔵庫に貯蔵したキャベツにおいては,表層葉の黄化が軽減された.黄化葉は健全葉と比べて気孔の構造崩壊が顕著であった.ニンジンにおいては,木部,篩部ともに細胞構造の崩壊が軽微だった.以上の結果から,ブライン式冷蔵庫の方が,細胞構造への影響が小さく,鮮度良く貯蔵できることがわかった.
This study verifies the effect of temperature and humidity environment on cell structure of vegetables in long-term storage. The time-course changes in the cell structure, were evaluated after storing the vegetables in the “brine type refrigerator” capable of maintaining low temperature and humid environment or the generic direct expansion type refrigerator for several months. The results showed that the yellowing of the outer leaves on the cabbages stored in the brine type refrigerator were inhibited, and structural collapse of stoma was conspicuous on the yellowing leaves compared with the healthy leaves. On the carrots, cell structure collapse was limited in both xylem and phloem when stored in the brine type refrigerator. From the above results, it was found that the brine refrigerator inhibited the damage in the cell structure and made it possible to store with high freshness compared with the direct expansion type refrigerator.
温湿度環境が長期貯蔵での野菜の鮮度に及ぼす影響
-第2報:ニンジン及びキャベツの細胞観察-
冨 川 翔 史* 小 山 晃 右* 徳 竹 美 友** 中 山 明**
* 株式会社ヤマト(371-0844群馬県前橋市古市町118)
** 前橋工科大学(371-0816群馬県前橋市上佐鳥町460-1)
本研究では,一般的な直膨式冷蔵庫と低温高湿度環境の維持が可能なブライン式冷蔵庫に野菜を数か月間貯蔵し,細胞観察を行うことで,長期保管中の温湿度環境が野菜の細胞構造に与える影響を検証した.その結果,ブライン式冷蔵庫に貯蔵したキャベツにおいては,表層葉の黄化が軽減された.黄化葉は健全葉と比べて気孔の構造崩壊が顕著であった.ニンジンにおいては,木部,篩部ともに細胞構造の崩壊が軽微だった.以上の結果から,ブライン式冷蔵庫の方が,細胞構造への影響が小さく,鮮度良く貯蔵できることがわかった.
キーワード: ブライン,冷蔵,鮮度,細胞観察,長期貯蔵
1.緒言
日本における食品ロスは,年間523万トンに上ると推計されており1),2030年度までの削減目標である489万トンの達成には,今後より一層の食品ロス低減の対策が求められる.国際的にも,食料の損失・廃棄を大幅に削減する目標が掲げられている.食品ロスの増加は,廃棄された食品を処分した際に発生する温室効果ガスによる地球環境の悪化や,将来的な世界人口増加に伴う食糧危機等に直結する大きな問題である.
日本国内における野菜の消費動向については,家庭での生鮮野菜の購入額が減少する一方で,サラダをはじめとした加工調理品の消費が増加してきている.新型コロナウイルス感染症の影響もあり,外食の購入額は大きく減少しているが,30~60歳代で食の簡便化志向が高まっている影響もあり,千切りキャベツやミールキット等のカット野菜の需要が増加している.近年での野菜の需要は,加工業務用が全体の約6割を占めている.しかしながら,家計消費用と加工・業務用の野菜の国産割合を見てみると,家計消費用の野菜はほぼ全量が国産であるが,加工・業務用は国産割合が7割程度にとどまっている2).加工・業務用に輸入品が使われる理由として,加工・業務用野菜には「定時」「定量」「定価格」「定品質」が求められるため,端境期や天候不順などの影響を受ける国産野菜では供給が難しいタイミングが出てきてしまうためである.加工・業務用野菜の国産割合を上げるためには,周年供給を可能にする体制作りが必要不可欠である.
野菜の鮮度を維持させながら数か月程度の長期貯蔵を可能にするためには,呼吸活性に伴う品質劣化と野菜表面からの水分蒸散による乾燥劣化を抑制することが重要である3-4).呼吸や蒸散を抑制するには,温度を低く,湿度を高く保つことが有効である.ブライン式冷蔵庫は二次冷媒であるブラインの搬送温度の安定化により,現在広く普及している直膨式冷蔵庫と比較して,安定した低温高湿度環境を維持することが可能である.更に,ヒーターを使用しない独自の除霜方式5)で庫内の温湿度変動を最小限に抑制することによって,品質劣化による廃棄量を大幅に削減することが可能になる.
既報6)では,温湿度環境が長期貯蔵での野菜の鮮度に及ぼす影響を検証するため,異なる温湿度環境に貯蔵したニンジン及びキャベツにおける外観,水分含有量,栄養成分含有量及び味認識装置による呈味の経時的変化の評価を行った.ビニール包装をしたニンジン及びキャベツのコンテナ内は各冷蔵庫内の温湿度よりも変動幅が小さく,更に,ブライン式冷蔵庫の方が比較的安定した低温高湿度環境であった.それによって,ニンジンでは外観及び呈味に対する鮮度維持効果が確認された.また,キャベツにおいては,安定した低温高湿度環境によって,外観及びビタミンCに対する鮮度維持効果が確認された.貯蔵1か月では,目視で識別できる外観変化は起こらないが,栄養成分は貯蔵1か月で約3倍と激的に増加する成分もあった.このことから,貯蔵の過程において,目視では識別できない細胞や組織の破壊が起きている可能性があると考え,野菜の細胞観察を行い,細胞の状態と鮮度の関連性について評価を行った.
2. 実験方法
2.1 冷蔵庫設備
本研究では,フロン冷媒の状態変化に伴う蒸発潜熱で冷却を行う一般的な直膨式冷蔵庫とブラインの顕熱で冷却を行うブライン式冷蔵庫を使用し,両冷蔵庫ともに庫内換気用のファンを設置した(Fig. 1).それぞれの冷蔵庫の大きさは内寸2,500 mm×2,500 mm×2,400 mmHとした.実際に稼働している冷蔵倉庫では,入出庫作業等で庫内空気が外気と一気に入れ替わることによって,大幅に庫内環境が変動するタイミングがある.そのため,実際の冷蔵倉庫運用を反映した条件とすべく,庫内換気用ファンによる1日あたり4回,各1時間の強制換気によって両冷蔵庫に同等の外気負荷を与える設備とした.
Fig. 1 Image of direct expansion type and brine type refrigerators
2.2 試験材料と貯蔵方法
ニンジン(晩抽天翔)においては,4日前に収穫されたものを前橋市内の仲卸業者から購入し,洗浄済みの葉なしのものを用意した.分析試料の均質化を図るため,形状や重量による選別を行った.その中から初期品質の分析を行うための試料を抽出した後,残りの209本を直膨式冷蔵庫に105本,ブライン式冷蔵庫に104本に分け,汎用プラスチックコンテナ(外寸: 370 mm×534 mm×305 mmH)にニンジンの向きをランダムに積み重ねる形で投入した.更に冷風が試料に直接当たることによる乾燥劣化の防止を目的として,コンテナ上面及び側面にビニール包装を行い,底面にはビニール包装を行わず通気が取れる形で各冷蔵庫に貯蔵した.コンテナ設置位置は庫内中央とした.貯蔵期間は4か月として,細胞観察は1か月ごとに実施した.
一方,キャベツ(青琳)においては,2日前に収穫されたものを仲卸業者から購入し,未洗浄のものを用意した.その中から初期品質の分析を行うための試料を抽出した.その後,残りの39個を直膨式冷蔵庫に20個,ブライン式冷蔵庫に19個に分け,鉄製コンテナ(TRUSCO製ネットパレット TNP-1N)に芯を下向きにした状態でキャベツを積み重ねる形で投入した.ニンジンと同様にコンテナ上面及び側面にビニール包装を行い,底面はビニール包装を行わず通気が取れる形で各冷蔵庫に貯蔵した.コンテナ設置位置は庫内中央とした.貯蔵期間は3か月として,細胞観察は1か月ごとに実施した.
2.3 貯蔵環境
直膨式冷蔵庫とブライン式冷蔵庫における温湿度環境(5日間)をFig. 2に示す.なお,温湿度の計測にはおんどとり(ティアンドデイ製 RTR503)を使用した.
Fig. 2 Storage environment in direct expansion type and brine type refrigerators
直膨式冷蔵庫においては,庫内温度が0~3℃の間で周期変動し,更に,除霜運転によって5℃程度まで一時的に温度上昇する環境とした.ただし,強制換気と不定期に行われる除霜運転が重複したタイミングでは,庫内温度が10℃程度まで上昇した.また,庫内湿度は制御せずに成り行きとした.
ブライン式冷蔵庫においては,庫内温度が0~1℃の間で周期変動する環境とし,除霜運転による温度変動が生じない環境とした.なお,強制換気と除霜運転のタイミングが重複した場合でも庫内温度の著しい上昇は確認されなかった.庫内湿度は直膨式冷蔵庫と同様に成り行きとした.
2.4 細胞観察
細胞観察には,一般的な直膨式冷蔵庫又はブライン式冷蔵庫において貯蔵したニンジン及びキャベツを用いた.ニンジンに関しては,4か月間それぞれの冷蔵庫で貯蔵し,貯蔵開始から1か月ごとに細胞観察を行った.また,木部と篩部ではカロテン含有量の経時的変動パターンが異なる6-7)ことから,それぞれの部位で細胞状態が異なると推測される.そこで,木部と篩部に分割して別々に細胞観察に供した.キャベツに関しては,3か月間それぞれの冷蔵庫で貯蔵し,貯蔵開始から1か月ごとに細胞観察を行った.キャベツの場合,ビタミンCやビタミンUの含有量の経時的変動パターンの違い6)から細胞状態が異なると推測される外葉と中央部に分割して別々に細胞観察に供した.また,キャベツの外葉は貯蔵に伴い黄色く劣化(黄化)し,健全葉と黄化葉では細胞状態が異なると推測される.そのため,外葉については健全葉と黄化葉にさらに分割して別々に細胞観察に供した.
細胞観察用の組織切片の調製は,以下の方法で行った.まず,検体の各領域から5 mm立方程度の試料ブロックを調製した.それらを試料の種類及び領域ごとに分けてガラス製バイアル瓶に入れ,そこへ試料が完全に浸るまで組織固定液(4%ホルムアルデヒド水溶液)を入れた.その後,減圧下(0.015 MPa)で2時間静置することにより固定液を完全に組織内に浸透させた(組織固定).固定液を除いた後,組織内液を徐々に水系から有機溶媒へと置換した.最後に,融かしたパラフィンに試料を浸すことで組織内にパラフィンを浸透させて固化させた(包埋).ミクロトーム(LEICA製 RM2245)を用いて,パラフィン包埋試料から厚さ10 μmの薄切片を調製したのち,薄切片をスライドグラス上に伸展させて,組織観察用切片とした.その後,切片をキシレンに浸してパラフィンを除き,続いてエタノールに浸してキシレンを除いてから,ヘマトキシリン及びエオシンにより組織染色を行った.染色後の切片にキシロールバルサムを滴下してカバーガラスをかぶせ(封入),光学顕微鏡(オリンパス製 CX41)を用いて観察及び写真撮影を行った.
3. 実験結果及び考察
3.1 貯蔵環境
各冷蔵庫に保管したニンジン及びキャベツのコンテナ内温湿度をFig. 3,4に示す.検証期間中のニンジンのコンテナ内平均温湿度は,直膨式冷蔵庫については2.3℃,93.8%で,ブライン式冷蔵庫については1.6℃,95.3%だった.キャベツのコンテナ内温湿度は,直膨式冷蔵庫については2.1℃,85.7%で,ブライン式冷蔵庫については1.2℃,96.4%だった.
Fig. 3 Storage environment in carrots container
Fig. 4 Storage environment in cabbages container
ビニールで包装されたニンジン及びキャベツコンテナ内は各冷蔵庫内の温湿度よりも変動幅が小さく,更に,ブライン式冷蔵庫の方が比較的安定した低温高湿度環境であった.庫内温湿度の計測と同様におんどとりを使用した.ニンジンコンテナ内温湿度とキャベツコンテナ内温湿度とを比較すると,湿度変動が異なることがわかる.これは,各コンテナの底面構造が異なることによる底面から侵入する空気に影響されていると考えられる.
3.2 外観
3.2.1 ニンジン
直膨式冷蔵庫においては,貯蔵3か月で萌芽や発根が全体40%の試料で確認された.貯蔵4か月では,萌芽と発根の成長や萎凋による外観劣化が全体の83%で発生した.
一方,ブライン式冷蔵庫においては,貯蔵3か月で萌芽や発根が全体の5%の試料で確認されたが,直膨式冷蔵庫と比較して発生数は少なく,軽度であった.貯蔵4か月では,萌芽と発根の成長が全体の45%で確認されたが,萎凋による外観劣化は起こらなかった.
貯蔵4か月が経過した両冷蔵庫の代表的な試料をFig. 5に示す.
ビニール包装をしたニンジンのコンテナ内は各冷蔵庫内の温湿度よりも変動幅が小さく,更に,ブライン式冷蔵庫の方が比較的安定した低温高湿度環境であった.これによって,外観品質に直結する呼吸劣化と野菜表面からの水分蒸散による乾燥劣化が抑制されたと考えられる.また,ブライン式冷蔵庫による低温高湿度環境により,発根や萌芽が抑制されたと考えられる.
Fig. 5 Appearance of carrots stored for four months
(left; direct expansion type, right; brine type)
3.2.2 キャベツ
直膨式冷蔵庫では,貯蔵1か月で表層葉の黄化が全体35%の試料で確認された.貯蔵2か月では,黄化の進行や腐敗による外観劣化が全ての個体で発生した.
一方,ブライン式冷蔵庫においては,貯蔵1か月では表層葉の黄化は確認されず,貯蔵2か月で黄化した試料が全体の33%で確認された.貯蔵3か月では,黄化と腐敗が著しく進行し,外観劣化が全ての個体で発生した.
貯蔵2か月が経過した両冷蔵庫の代表的な試料をFig. 6に示す.
Fig. 6 Appearance of cabbages stored for two months
(left; direct expansion type, right; brine type)
ニンジンと同様,コンテナ内は各冷蔵庫内の温湿度よりも変動幅が小さく,更に,ブライン式冷蔵庫の方が比較的安定した低温高湿度環境であった.これによって,外観品質に直結する呼吸劣化と野菜表面からの水分蒸散による乾燥劣化が抑制されたと考えられる.貯蔵中のキャベツにおける貯蔵温度とクロロフィル含量の関連性として,冷蔵貯蔵でクロロフィルの低下を防ぐことができるとの研究結果が粕川らによって報告されている8).本研究では,キャベツを安定した低温環境であるブライン式冷蔵庫で貯蔵することにより,表層葉の黄化を遅らせることができたと考えられる.
3.3 細胞観察
3.3.1 ニンジン
細胞観察の結果をFig. 7,Fig. 8に示す.
Fig. 7は木部の,Fig. 8は篩部の細胞の状態である.木部,篩部ともに,貯蔵前は細胞壁構造が維持され,一つ一つの細胞の輪郭が明確であった.木部の細胞は全体的に篩部の細胞と比べて大きいことがわかった.直膨式冷蔵庫において貯蔵期間が長くなるにつれて,細胞の輪郭が明確に確認できなくなった.ブライン式冷蔵庫においては同じ貯蔵期間の直膨式冷蔵庫のものと比較して細胞の輪郭が明確に確認された.これは木部,篩部ともに同様の傾向であった.木部と篩部で比較を行うと,篩部は同じ貯蔵期間の木部よりも、細胞の輪郭が明確に確認できた.
Fig. 7 Carrot cells of xylem
Arrows indicate the collapse of cell wall structure
Fig. 8 Carrot cells of phloem
Arrows indicate the collapse of cell wall structure
ここで,500 μm×500 μmの視野で撮影した切片画像において,構造が維持されていた細胞数を計数した.各貯蔵条件ともに代表6枚の切片画像における細胞数の平均値を算出した.木部は貯蔵前が12.8個で,ブライン式冷蔵庫の貯蔵期間1か月,2か月,3か月はそれぞれ7.5個,6.7個,5.0個となり,直膨式冷蔵庫の貯蔵期間1か月,2か月,3か月はそれぞれ7.7個,4.0個,0.8個となった.篩部については,貯蔵前が28.2個で,ブライン式冷蔵庫の貯蔵期間1か月,2か月,3か月はそれぞれ19.0個,19.2個,13.2個となり,直膨式冷蔵庫の貯蔵期間1か月,2か月,3か月はそれぞれ16.7個,10.5個,4.0個となった.これらのことから,冷却環境の影響により,細胞壁の構造に影響を与えたと考えられる.
貯蔵開始から4か月経過したニンジンにおいては,組織固定を終えた試料ブロックの組織内液を有機溶媒へと置換する過程で,ブライン式冷蔵庫で貯蔵したものと直膨式冷蔵庫で貯蔵したものとで変色の程度に顕著な差異が認められた.その様子をFig. 9に示す.
Fig. 9 Pieces of carrot tissue stored for four months
A; phloem tissue stored in direct expansion type refrigerator,
B; phloem tissue stored in brine type refrigerator,
C; xylem tissue stored in direct expansion type refrigerator,
D; xylem tissue stored in brine type refrigerator
ブライン式冷蔵庫で貯蔵したニンジンではニンジン本来の色である「橙色」が保持されているのに対し,直膨式冷蔵庫で貯蔵したニンジンでは木部,篩部ともに「橙色」が消失して黄色く変色している様子が認められた.このことから,ブライン式冷蔵庫で貯蔵したニンジンでは細胞構造が保持されているために「橙色」の主要色素であるβ-カロテンが組織内に残るが,直膨式冷蔵庫で貯蔵したニンジンでは細胞構造の激しい崩壊に伴ってβ-カロテンが消失した可能性が考えられる.そこで,それぞれの試料ブロックから切片を調製して細胞観察を実施したところ,Fig. 10に示すように,木部,篩部ともにブライン式冷蔵庫の方が細胞の輪郭が明確に確認できることがわかる.既報6)では,冷蔵庫の違いによるα-カロテン及びβ-カロテン含有量に有意差は確認されなかったため,本検証においても両冷蔵庫のニンジンのα-カロテン及びβ-カロテン含有量に差は生じていないと仮定すると,細胞壁の崩壊の差により,油溶性であるβ-カロテンの有機溶媒への溶出量の差に影響したと考えられる.
Fig. 10 Cells of carrots stored for four months
Arrows indicate the collapse of cell wall structure
Fig. 11 Cells of cabbage outer leaf
A; before refrigerated storage,
B; healthy leaf stored for a month,
C; yellow-turned degraded leaf stored for a month
Arrows in C indicate structurally collapsed stoma
3.3.2 キャベツ
外葉の表皮には,外界との連絡口として重要な気孔が観察された.
まず,外葉における細胞観察の結果をFig. 11に示す.左側に貯蔵開始前の,右上にブライン式冷蔵庫で貯蔵1か月経過した健全葉の,右下に直膨式冷蔵庫で貯蔵1か月経過した黄化葉の細胞状態をそれぞれ示した.いずれの貯蔵期間においてもブライン式冷蔵庫と直膨式冷蔵庫との間で細胞状態の顕著な違いは認められず,健全葉と黄化葉との間でも細胞壁構造の保持状態に関しては顕著な違いは認められなかった.しかしながら,Fig. 11に示すように,健全葉では気孔の形態が明確に保持されているのに対し,黄化葉では形態が崩れている気孔が多く認められた.このことと,直膨式冷蔵庫では黄化が早く進行することを考え合わせると,ブライン式冷蔵庫の方が鮮度の保持にも直結する気孔の構造保持において優れていると考えられる.また,中央部における細胞観察の結果をFig. 12に示す.ニンジンと同様に,500 μm×500 μmの視野で撮影した切片画像において,構造が保持されていた細胞数を計数した.各貯蔵条件ともに代表6枚の切片画像における構造が保持されていた細胞数の平均値を算出した.中央部は貯蔵前が17.8個で,ブライン式冷蔵庫の貯蔵期間1か月,2か月,3か月はそれぞれ12.0個,3.7個,5.0個となり,直膨式冷蔵庫の貯蔵期間1か月,2か月,3か月はそれぞれ7.7個,1.8個,0.5個となった.両冷蔵庫ともに貯蔵期間が長くなるにつれて,構造を保持されていた細胞数が少なくなる傾向だった.貯蔵期間別に比較を行うと,全ての貯蔵期間においてブライン式冷蔵庫の方が,構造が保持されていた細胞数が多いことがわかった.
Fig. 12 Cells of cabbage central core
Arrows indicate the collapse of cell wall structure
4. 結論
本研究では,一般的な直膨式冷蔵庫と低温高湿度環境の維持が可能なブライン式冷蔵庫に野菜を数か月間貯蔵し,細胞観察を行うことで,長期保管中の温湿度環境が野菜の細胞構造に与える影響を検証した.その結果,予想していた通り目視では識別できない細胞や組織の破壊が起きており,両冷蔵庫で破壊の程度に違いが確認された.ブライン式冷蔵庫に貯蔵したニンジンにおいては,直膨式冷蔵庫に貯蔵したものと比較して,木部,篩部ともに細胞構造の崩壊が軽微だった.また,キャベツにおいては,直膨式冷蔵庫に貯蔵したものと比較して,表層葉の黄化が軽減された.黄化葉は健全葉と比べて気孔の構造崩壊が顕著であった.以上のことから,ブライン式冷蔵庫の方が,細胞構造への影響が小さく,鮮度良く貯蔵できることがわかった.
References
*YAMATO Inc.
(118 Furuichi-machi, Maebashi, Gunma, 371-0844)
** Maebashi Institute of Technology
(460-1 Kamisadori-machi, Maebashi, Gunma, 371-0816)
This study verifies the effect of temperature and humidity environment on cell structure of vegetables in long-term storage. The time-course changes in the cell structure, were evaluated after storing the vegetables in the “brine type refrigerator” capable of maintaining low temperature and humid environment or the generic direct expansion type refrigerator for several months.
The results showed that the yellowing of the outer leaves on the cabbages stored in the brine type refrigerator were inhibited, and structural collapse of stoma was conspicuous on the yellowing leaves compared with the healthy leaves. On the carrots, cell structure collapse was limited in both xylem and phloem when stored in the brine type refrigerator. From the above results, it was found that the brine refrigerator inhibited the damage in the cell structure and made it possible to store with high freshness compared with the direct expansion type refrigerator.
Keywords: Brine, Cold storage, Freshness, Cell observation, Long-term storage