住宅用や業務用空調機に用いられるパラレルフロー型熱交換器を模擬した垂直ヘッダ/水平多分岐管内の気液二相冷媒流について,分岐管を加熱し管内の冷媒を蒸発させた状態で各分岐管への気液分配量の測定を行った.試験流路は直径22 mm,高さ84 mm の垂直ヘッダに長さ540 mm の水平分岐管(アルミ製扁平多穴管)を10 mm 間隔で8 本接続した多分岐管であり,全分岐管を1 本当たり20~100 W で均一に加熱した.その結果,分岐管の加熱により最下部分岐管への過大な液相分配が抑制されるとともに上部分岐管への液相分配量が増加し,液相分配の均一性が向上する傾向が明らかになった.
IoT 技術を活用した各種機械の異常予知・診断が広く研究されている.空調機は多くの施設で一般的に使用されているが,特に小中型の空調機の異常診断に焦点を当てた研究はほとんど見当たらない.本研究では,既存の空調機にデータ収集および診断システムを導入するためのアプローチを提案する. 空調機の異常を検出および診断する際に直面する課題には,ノイズの多い環境,コストの制約,季節変化などがある.本研究では,データ収集システムと診断方法を慎重に調整し,診断モデルを季節ごとに構成し, 振動データに加えて圧力データ推定値を利用することで, 安価で精度の高い異常検出システムを実現する.
水平円管内を流れるアイススラリーについて,流速やIPF による流動様相の変化に関する検討を行った.本報ではアイススラリーの流動様相における,最適な分類方法の提案をした.また氷粒子の分散と凝集に影響する因子として,気泡と初期水溶液濃度に着目した検討を行った.観察の結果から,流動様相を3 種類に区分して整理した.高流速,高IPF の条件では均質流れになりやすく,気泡を伴うアイススラリーの流動では,気泡を伴わない場合と比べて,より低流速や低IPF の条件でも均質流れに遷移することが分かった.この遷移には,不均質流れから均質流れ,またはクラスター流れから均質流れに遷移する2 パターンが存在し,後者は初期水溶液濃度が低い場合にのみ現われる.前者は氷粒子に付着した気泡によって,氷粒子が分散することによるものと考えられる.後者の原因としては,気泡を伴わないときには氷粒子同士が近づきやすく付着・凝集が生じやすいが,気泡が伴うことにより前者と同様に氷粒子を分散させ,付着・凝集が生じるような状況をなくす効果があると考えている.
以前の研究において,水の屈折率をマイクロ波照射下で測定し,その低下度合いから水素結合ネットワークの安定性を議論した.今回,電解質水溶液の水和構造の安定性を明らかにするために,NaCl 水溶液の屈折率を種々のマイクロ波照射モードで測定した.水や低濃度のNaCl 溶液の水素結合ネットワーク構造は,高出力のマイクロ波照射により崩壊する.一方で,NaCl 濃度が高い程そのネットワーク構造が強固であるため,高出力でも安定する.また,照射間隔を変えたパルス照射時の屈折率から,照射により崩壊した水素結合ネットワークが非照射時に回復し,高濃度電解質水溶液に対するマイクロ波非熱効果は長時間持続しないことがわかった.最後に,照射中のマイクロ波効果は顕熱として蓄えられる可能性を示唆した."
閉塞を招く危険性が高い流動様相であるブロック状流れを回避する知見を得るため,流動するアイススラリー中の氷の凝集に着目し,流動様相の変化について検討した.重力による影響を検討するために,上昇流と水平流の実験結果を比較したが,流動様相に顕著な差はなく,重力の影響は小さいことがわかった.また,氷の粒子径の影響を検討するために初期IPF を変化させて流動様相を比較した.アイススラリー中の氷は,生成直後は不規則な形の比較的大きな氷粒子が凝集した状態であるが,融解が進むにつれて小さくなり,楕円形の氷が分散した状態になっていくことがわかった.また,0.1mm 以下の細かい氷は優先的に融解して消滅していくことがわかった.初期IPF を変えて氷粒子径の影響について検討した結果,氷粒子径が小さいほど非ブロック状流れになりやすいことがわかった.その原因として,氷の融解により付着面積が小さくなること,粒子径が小さいほど流れから受ける力の影響が顕著になることが考えられる.
本研究は,純水および水溶液系の潜熱蓄熱材の凝固特性の把握を目的として,純水および水溶液が 凝固した際に発生する膨張圧の大きさ,およびその発生メカニズムに及ぼす水溶液濃度の影響につい て実験的に検討を行ったものである.特に,縦方向にアスペクト比の大きな蓄熱容器に着目し,その形 状的特性から生じる容器内の初期濃度勾配が凝固層の成長に及ぼす影響に関して,濃度成層の発達お よび消滅挙動の可視化観察から詳細に検討した.本研究の結果,氷層のブリッジングによる局所的な 膨張圧の上昇を確認し,最大発生圧力は初期濃度が高くなると小さくなることを明らかにした.また, その圧力の大きさは,水溶液の平均濃度に強く影響される一方,容器内高さ方向の初期濃度勾配の影 響は小さいことを明らかにした.
本研究では,蓄熱,熱輸送媒体としての利用が期待される糖アルコールスラリーの1 種である,キシリトールスラリーを対象とし,水平円管内における流動特性について,実験的に検討を行った.実験結果より,キシリトールスラリーの流動様相は平均流速と粒子の終端速度の比に応じて,分散質の沈降を伴った不均質流れ,分散質が均質に分散した均質流れに分類可能であることがわかった.均質流れと判断できた条件について,レオロジー特性を検討したところ,固相率5–15 wt%の範囲において,キシリトールスラリーはニュートン流体の挙動を示し,Einstein の式,Thomas の式およびMooney の式いずれによっても見かけの粘度を良好に予測できることがわかった.
本研究は,小規模工場や家庭などから排出される低位熱エネルギーを有効利用する新たな多段型潜熱蓄熱式熱交換システム向けに新蓄熱物質を探索し,常温域に相変化特性を有するカプリン酸,ラウリン酸,ミリスチン酸の相互混合脂肪酸の液相状態における熱物性を計測・評価したものである.これらの物質は,過冷却が小さくて扱い易く,人体に影響が少ない潜熱蓄熱物質でもある.ここでは著者らが既に報告(Inagaki et al. 2019)した熱物性値(密度・粘度・融点・凝固点・過冷却度)を参照しながら,未だ同定されていない比熱・熱伝導率とその温度依存性に関する計測と評価を進めた.その結果,液相状態下の混合脂肪酸の比熱や熱伝導率に関する熱物性値を新たに提示するとともに,実使用形態に合わせた熱輸送プロセスに必要不可欠な伝熱データベースの充実を図った.